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142.その男……

どうしてこうなった……?


心結は見知らぬ男の膝の上に横抱きにされ座らされていた。

もちろん衣装はあの時のままだった。


かろうじて、大きなバスタオルを腰から下にかけてはいるが

相変わらず罰ゲーム状態だ……。


その男は恐ろしいくらい顔が整った美丈夫だった。

この世のものとは思えないぐらい均整のとれた美とでもいうのか。

見た目は猫の獣人に見える……。


そしてそんな二人の目の前に、心結With愉快な仲間たちが

勢揃いしていた。


場所はどこかのお店の個室のようだった。

言わずと知れたギースの店のVIPルームだ。


(ヒィッィィィイ、ラウルさんの目がイッチャッてるよ。

怖いよ……目のすわり具合がやばい)


心結は恐ろしすぎて、その男の胸にやむを得ず顔を埋めていた。

しかし背中には焼け付くほどの冷気を感じている。




結局、月のフィナーレを飾ったのはラウルではなかった。

名も知れない男が急にこう叫んだ。


「100,000,000!!」


その金額に会場が水を打ったように静まり返った。


(はっ?

えぇぇぇぇぇぇ!! 1億モルスだと!!

この世界の通貨だといくら位かわからないけど……。

尋常じゃない金額なのはわかる)


心結は自分についた値段に口をあんぐりとあけてその男をみた。


ラウル達もしかりだった。

流石にその金額は出せない……。

小さい国なら買えてしまいそうな値段だ。

検討むなしく心結はその男のものになってしまった。



そして今に至るこの状況……。

ラウル達を前に愉快そうに目を細めているこの男……。


(ほう……この狼がお前の旦那か……。

お前にはもったいないくらいの男だな)


そう、心結を競り落としたのは……

幸運や財宝の神“ヘルメース”様だった。


(なんのお戯れでしょうか、ヘルメース様)


(いやぁ、一度参加してみたかったんだよな。

まぁ正直言うと、フェネックのオネェチャンの方を

競り落としたかったんだけどな)


そう言って意地悪そうに笑った。


(ソレハ、ザンネンデシタネ)


心結は死んだような目で答えた。


(…………)


そんな反抗的な心結に対しての意地悪だろうか。

ヘルメースは心結の太ももを急に軽く撫でた。


「ひゃぁ……」


そんな心結の甘い声にぐんとラウルの殺気が膨らんだ。


(ちょ……なにするんですか!!)


(ククク……いいじゃねぇか、お前は俺のものなんだから

少しぐらい楽しませろ)


これみよがしに、心結のガウンの紐を解いた。


ラウルの刺すような視線が痛い。

しかしヘルメースはどこ吹く風という表情だった。



〈一体この男は何者なんだ……〉


ラウルは久しぶりに自分が持っている特殊スキルの一つ

“鑑定スキル”を密かに発動させた。


〈…………。

そんな馬鹿な、何も見えないなんて事は初めてだ〉


たとえ自分より力が強い者のステータスであろうと

何かしらの情報は見ることができる力だった。


わからない場合はその部分だけがみえない事があっても

名前も種族も歳もその他諸々全てが見えないなんてことは

一度もなかった……。


それなのにこの男は一切何も見えなかった。

人知れずラウルは絶句していた。


〈考えたくもないが……。

この男……人ならぬものなのか……〉


そんなおり横で首を傾げながらポソッとアレクシが唸った。


「どこかであの顔を見たことがあるんだよな……。

あんな美丈夫な男そうはいるまい……」


「…………」


ラウルも思案するように宙を見上げた時だった。

それが目に飛び込んできた。


〈まさか……そんな事が!!〉


ラウルはその男の正体に気がついてしまった。



「お前……けっこう腰細いな」


「触るな、減るわ!!」


あまりのセクハラに心結はヘルメースに対して敬語すら

なくなっていっていた。


そんな光景に耐えられなくなったのだろう。

ラウルはこう切り出した。


「何処のどなたが存じませんが……

心結を返していただけませんか」


「…………」


その男は嘲笑をこめて言った。


「おかしなことを言う。

この娘は私が正式な手続きを踏んで手に入れたものだ」


「それは……!!

元はといえば心結は攫われて……」


アレクシはたしなめる様にラウルの手を掴んで首を横にふった。


「…………」


〈もしあの方ならば……

この方法で心結を取り戻すしかない〉


ラウルは賭けにでた。


「それならば、この国の流儀に乗っ取って

勝負をさせて頂けないでしょうか?

どうやら勝負ごとがお好きな様子……」


「ほう……この私に勝負事を挑むのか」


(えっ?この人勝負事の神様だよ!!

勝てるの?勝てる気がしない)


心結はその提案に驚き慌てた。


「いいぜ、面白そうだな。

狼、もちろんおまえがやるんだよなぁ」


男は挑むようにラウルをみた。


「はい」


ラウルも一歩も怯まず男を睨みつけた。


(いい目をもっているじゃねぇか。

本当にこの男がお前に惚れているか?

世の中わからんな)


(余計なお世話ですから。

それに私とラウルさんは友達です。

変な事言わないでください)


心結はシバキ倒したい気持ちを抑えながら男を睨んだ。


ヘルメースは心結を残念な子をみるような視線で

見た後に、頭を優しくポンポンと撫でた。


(お前……

精神面でも残念なんだな……。

やれやれ……狼も報われねぇな……)


(えっ?なにそれ、どういうことですか?)


(はっー、お前が身も心もおこちゃまなのは

はじめからわかっていることだしな。

愚問だったな……)


そう言ってヘルメースは苦笑した。


(なんかむかつく……)



「取引成立だ。

俺が負けたら、心結は返してやる。

その代わりお前が負けたら……。

心結は諦めろ」


ラウルはごくりと息をのんだ。

そして力強く頷いた。


(ラウルさん……)


心結は心配そうにラウルを見つめた。


ラウルはそんな心結に碧眼を蕩けさせて優しく微笑んだが

心結の衣装が目に入った途端目が三角になった。


(はぅ……やっぱり怒っているじゃん……)


「で、勝負は何にする?お前が決めていいぞ」


ヘルメースは、ますます楽しそうに目を細めた。



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