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140.嘘だといってくれ

ラウルはアレクシと合流した。


宣言通り、アレクシは“砂漠の花”を落札してくれていた。


「ありがとうございます。

これで少し肩の荷がおりました」


ラウルは丁寧にアレクシに頭をさげた。


「今年はあまりライバルがいなくてな。

去年より安い価格で落とせたぜ」


そうは言っても決して安くない買い物だった。


「それでラウルさんの方はどうだった」


「ああ、手に入れた」


そう言って月の木札をみせて、今まであった事を話した。


「あの男がそのような事を……

もしかして、まさかな……」


何か思う事があるのか、アレクシは顎に手をかけて

何か考えている様だった。


「一先ずいったん、家に帰ろう。

月にむけて再確認と準備だ」




そこは街外れの埠頭だった。

普段は立ち入り禁止エリアになっている所だ。


ラウルたちがそこに立っていると一艘の小舟が近づいてきた。

頭からすっぽりとローブを被った男が乗っていた。

灯りはその男がもつランプ一つのみだ。

ラウルたちは無言でその船に乗り込んだ。


幾つもの入り組んだ水路を通り、着いた先は洞窟だった。

無言で降りるように促されたので、二人は降りた。


「まさかこの街にこのような場所があったのだな」


そのまま今度は違う男に案内され奥に入って行った。


大きな鉄の扉を開けると、其処はドーム状になった

劇場なような空間だった。


前に舞台があり、今は分厚いカーテンが降りている。


そこに50人ほどの人々が椅子に座っていた。

ラウルたちも前から5列目ほどの中央の席に案内された。


みんな仮面や帽子などを被っている為に素性はわからない。

しかしきっとどこかの国の名のあるもの達なのだろう。


ラウルたちが席に着いたのと同時に扉が占められた。

すると一斉に明かりが消えた。


壁に掛けられた灯りだけがぼんやりと浮かんでいる。


舞台袖の一部にスポットライトがあたった。

美しいキツネの獣人の男が現れた。


「紳士淑女の皆様。

ようこそ“闇のバザール”の月へ……。

今年も名品揃いでございます。

どうぞ最後までゆっくりとお楽しみくださいませ」


そう言うと舞台のカーテンがあがった。


「まずはNO.1の商品。

“桃源郷の桃”でございます」


大きな鉢に入った、艶々の桃が生った木が登場した。


「まずは500,000モルスから……」


司会者のキツネ獣人がそう告げると、あちらこちらから

金額をつげる声があがる。


「700,000!!」


「850,000!!」


「モルスで取引するのだな」


ラウルがそう呟くとアレクシが言った。


「ランベール王国の通貨は一番信用があるからな。

それだけ大国という訳だ、お前さんの国は」


そんな中、次々と声があがり最終的には

3,750,000モルスで落札された。


「信じられん値段がつくのだな」


ラウルは少し面食らっていた。


ランベール王国では、一般の国民の一か月の給料は

7,000~10,000モルスだ。

それで十分に一家4人で暮らしていける。


「ここは月だからな。

ほとんどがご禁制品だ……。

あれでも安いほうだろう」


そんな調子で次々と珍しい商品が登場してきた。

そして1時間ほどたった頃だろうか……。


急にまた明かりが消えた。


そしてキツネ獣人の男が興奮したように告げた。


「それでは皆様のお待ちかね。

目玉商品の登場です。

今回は2つございます。

まずは一つ目から……」


そういうと、舞台の真ん中にスポットライトがあたり

何かがしたからせりあがってきた。


「おぉぉぉぉぉ!!」


会場中がどよめいた。


「なっ!!」


ラウルはそれよりその格好に度肝を抜かれた。


「これは、たまらんな」


思わずアレクシですら興奮でちょっと声が上ずった。


あまりにも艶めかしい恰好のフェネック獣人の美少女が

横座りで登場してきた。


しかしアレクシはすぐそんな自分に後悔することになる。

自分の横から尋常じゃない怒りと殺気が漏れてくるのだ。


「まさか心結もこのような格好をさせられているのでは

ないでしょうね……」


冷徹で冷ややかな視線の男はかなりご立腹の様子だった。


「もしこのような姿だったら。

私はこの会場にいる全ての方々を抹消しなければ

いけなくなるやもしれません」


「えっ?」


アレクシは冷や汗が止まらなかった。


「あのような姿は私しか見てはいけないものです」


そういってぞっとするほど冷たく微笑んだ。


「ど……どうだろうな」


〈この人なら本気でやりかねん〉


「早急に決着をつけましょう。

アレクシさんお願いいたします」


「わかりました」


〈俺……生きて帰れるだろうか……〉


アレクシはキリキリと痛む胃を押えながら

バザールに参加した。


もちろんこの美少女を獲得しようと熾烈な戦いが

すでに始まっていた。


「まずは……

2,000,000から始めます」


「3,500,000!!」


前列の男が叫んだ。

するとすぐ後方の男が叫んだ。


「4,000,000!!」


ん、この声どこかできいたことあるな……。

そう思ってラウルがこっそり振り返るとあの宿屋の息子だった。


〈あいつ、本当に懲りねぇな……〉

ラウルはその執念深さに苦笑した。


そんな中……周りでひそひそした噂話が聞こえてきた。


〈今年はあの男が参加しないから、俺達も競り落とせるかもな〉


〈それは本当か、あいつ必ずフェネックの獣人は

競り落としていくからな。

よっぽどフェネック好きなんだろうよ〉


男達はいやらしく笑った。


〈どこのどいつなんだ。その男〉


〈さあな、どこかの国の大商人だってきいたぜ〉


〈俺は、実はフェネックの獣人だってきいたぜ。

どちらにしろ、その男に買われた娘は二度と姿を

見せないというからコワイ話だぜ〉


その言葉にラウルはある男の顔が浮かんだ。

まさかあの男……。


そんな中、宿屋の息子とアレクシの一騎打ちになっていた。


「10,000,000!!」


顔を真っ赤にして宿屋の息子は叫んだ。


「もうないですか!?」


キツネ獣人は煽るように会場を見渡した。


舞台の上ではフェネックの美少女が顔を真っ青にして

震えている。


宿屋の息子は勝ち誇った顔をしていた。


「そんじゃ、止めをさしますか」


アレクシは叫んだ。


「20,000,000!!」


会場が割れんばかりの歓声があがった。

宿屋の息子も流石に出せる金額じゃなかったようだ。


席に座って項垂れている。


「決まりました。

NO.6はそこの御仁が落札いたしました」


アレクシが落札にのっとって担当者と思われる

トラの獣人と木札をかわそうとしていた時だった。


奇声をあげながら宿屋の息子がアレクシに襲い掛かってきた。


「あの娘は僕のものだ!!」


目が血走りものすごい勢いでこちらに向かってきていた。


しかしあっさりと警備のトラ獣人達に捕獲され

強制退場させられていた。


「あいつ終わったな……。

もう表舞台でも姿をみせることはないだろう」


苦々しくアレクシは呟いた。


「よし、次が本番だ」


ラウルとアレクシは頷きあった。



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