14.甘い誘惑にはご用心!?
「王族に会う話、いきなりは…やはり厳しいか」
思案する時の癖なのか、ジェラールの尻尾が
軽くソファーを叩く。
(尻尾可愛い。感情に合わせて自由自在に動くのかな)
「俺の尻尾がきになるのか?」
心結は無意識のうちに、ジェラールの尻尾を目で
追っていたようだった。
「……!不躾な視線を失礼しました。
素敵な尻尾だったので、触りた……。コホン。
見惚れてしまっていました。
ところで、公爵様は、ジャガーの獣人様ですか?」
(あぶなっ、問題発言するところだった……。
半分出ちゃったけど)
「ジェラールでいいぜ。凄いな心結ちゃん。
〈流石モフモフスキー 変態レベル6持ち〉」
最後の一言は、ボソッと聞こえない程度に呟く。
「えっ?」
(何か言った!?最後の方が聞き取れなかったけど……)
ジェラールは嬉しいのか、尻尾を左右にユラユラと
揺らした。
「初対面だと、ヒョウ獣人に間違われるんだよ」
「斑紋をみればわかりますよ。
ジャガーはヒョウと違って、斑紋の中にちいさな
黒い模様がありますから。
ヒョウよりも大型で全体的にがっしりした体格も
魅力的ですし!」
「細かい所まで気がついてくれて嬉しいねぇ」
「それに、私の国では、毛皮の模様にハートマークなどが
あると幸運とされていまして!
それを見つけると恋愛運が上がるとかで……
女子がこぞって見つけようとしたりするんですよ」
興奮して、キラキラした目で淀みなく熱く
動物愛を語る心結。
「クククッ……本当に好きなんだな、動物が」
「あっ……。失礼しました。
ジェラール様の尻尾が本当に素敵だったもので」
本人が一番わかっている事を熱く語った自分に恥じらい、
顔を赤く染めていると……
突然、顎をクイッと優しく掴まれた。
キスをされてもおかしくないくらいの至近距離で
見つめられ……。
(瞳は金色なのだな……。綺麗……)
悪い大人の色気を振りまきながら、目を細めたジェラールは
心結に囁いた。
「心結ちゃん、獣人の男に”尻尾が素敵”と軽く言っては
いけないぜ。
物凄い殺し文句だからな」
「……。ジェラール…様!?」
「俺の毛皮にも……
ハートマークがあるか探してみるか?ん?」
(ヒィィィィィ、リアル顎クイ!頂いた!!
漫画やドラマの中だけの出来事かと思ってたぁぁぁ!
もしかして、毛皮にハートマーク持ちですか!?
いいの?探していいの?
ついでにモフモフしてもいいかな)
〈顔真っ赤にして可愛いねぇ……。
初心な反応がますますからかいたくなるな。
純粋培養な箱いり娘ってところか……〉
ジェラールと心結は、全く明後日の方向で
お互いに萌えていた。
「心結ちゃん……」
若干揶揄いが含まれたあまい声で囁かれ、
流石に恥ずかしさと戸惑で狼狽える。
自分の処理能力では、対処できない出来事に石のように、
ピシッと固まり動けない心結であった。
ガッッッッ!
物凄い衝撃音が目の前でしたと思ったら、
ジェラールが頭を抱えて、ソファーから転げ落ちた。
「何をなさっているのですか、ジェラール様」
絶対零度の微笑みを湛えた執事が、いつの間にか
二人の前に立っていた。
どうやらジェラールの頭に、脳天チョップを
おみまいしたらしい。
頭を擦りながら、ジト目で執事を睨んでみる。
「痛ってえ!!ラウル。容赦ねぇな相変わらず。」
「痛くしておりますから。全く、油断も隙もない。」
「獣人男子に対する心得をだなぁ。」
「そのような事を教える前に、
もっと他に大事なことがありますから。
この件はしっかりとご報告させて頂きますよ。」
「ちょ……おまっ……それは!!」
(まるで親子喧嘩だなぁ。仲いいなぁ)
微笑ましく二人のやり取りを見つめていると……
「なに貴方もまぬけ顔をさらして、
第三者みたいな顔をしているのですか」
「まぬけ顔……」
「もう少し恥じらいとか、危機感とか持ち合わせて
いないのですかね。異世界人様は」
「私には、桐嶋心結という名前があるのですが、執事様」
(本気で失礼な執事だな、コイツ!)
ラウルと心結の視線が鋭く絡みあった!!
どこかでゴングが鳴った!ファイッ!
そんな二人の様子を見かねたジェラールが、
降参したように手をあげた。
「わかった、わかった。後はお前に任せる。
じゃあな、心結ちゃん。また後でな~。
夕食のときに家族紹介するな」
ジェラールは、そのまま部屋を出て行った。
取り残された二人は、気まずい雰囲気の中、
黙って睨みあっていたが、そこに救いの女神が現れた。
「ラウル様。ここにいらしたのですね。
ミュー様のお部屋の用意が整いました。」
ディーヤがひょっこり現れた。
「ディーヤァァァァ。会いたかったよぉ」
心結は一目散に、ディーヤに抱きついた。ガシッ!!
「まぁ……、あらあら」
驚きながらも心結をそっと抱きしめてくれた。
ぎゅうううう。どさくさに紛れて、ディーヤの尻尾も
巻き込んでスリスリする。
「怖かったよぉぉぉ!」
ベソベソと嘘泣きを始める心結。
「…………」
〈どういう事ですか!?〉
黒い微笑みつきのディーヤの冷たい視線に
耐え切れなかったのか、目を泳がすラウル。
(はぁぁぁ、モフモフ癒される。
怒りも昇華していくようだ。
変態レベルがあがっても構うもんか!
今猛烈に癒されたいんじゃぁ。陰険執事め)
「さぁ、お部屋で休みましょう」
「うん……ぐすっ……」
一人取り残されて、ちょっぴり動揺している執事が
目の端に映ったが知らない!
少し困ればいい、ウフフ~。