133.またですか!!
その頃心結達は、ディナーの用意をしていた。
今日も用心の為に泊まっていけと言われているので
リシュ達と一緒に手伝っていた。
その日何故か大量の注文が入り
全ての従業員が配達に出かけていた……。
従業員達は心結達だけ残していくことを心配したが
近所のお得意さんの発注という事もあり
みんな出払っていたのだ。
すると店の呼び鈴がなった。
「どうしよう……お客さん来ちゃったよ。
ミュゼさーん、お客さん~」
心結がミュゼを呼ぶが地下にある貯蔵庫にハムを
取りにいったまま戻らないようだ。
鍋に火をかけているのでここを離れられない。
「俺、呼んできます」
そういってリシュは数匹の幼体フェネックと台所を出て行った。
するとまた何回も呼び鈴が鳴る。
しばらくほっておいたのだが、何度も何度もなる。
「しかたないな、少し待ってもらうように言っておくか」
心結は鍋の火を最小にした。
そしてアルビノの幼体フェネックちゃんを一匹抱いたまま
店の方へ向かった。
しかし、店の中には誰もいなかった。
「あれ?おかしいな」
心結は念のため、店の外にでて確かめた。
辺りは黄昏時で人もほとんど通りにはいなかった。
「ん?」
疑問に思いながらも店に戻ろうとした時だった。
ビリっと何か背中に感じたと思ったら……
目の前が真っ暗になり、身体の力が抜けていった。
〈マジか……。
危険回避スキルが全く働かなかったのにこの仕打ち。
ラウルさんに怒られる……。
毎回毎回攫われるってなんなのさ〉
と盛大に心で罵倒したまま気を失った。
「…………!!」
しかしその時、攫われる様子を一部始終を見ていたものがいた。
余りにも小さい客だったので心結は気がつかなかったのだが
店の中にはトビネズミの番がいた。
数分後……
台所に戻ったミュゼとリシュが見たのは
切りっぱなしの野菜と火のかかった鍋だけが
コトコトと揺れている風景だった。
「ミュー様は何処にいったの?」
「店ですかね?
結構呼び鈴しつこく鳴らされていましたし」
リシュは首を傾げた。
何故か嫌な予感がしたミュゼは店にかけつけた。
しかしそこにも心結の姿はなかった。
「ミュー様……」
表通りにでて辺りを探したがいない。
「どこなのミュー様、返事をしてください」
オロオロしながら涙目で叫ぶミュゼだった。
しょんぼりしながら店の中に入ると
レジカウンターにトビネズミの番がいるのが見えた。
なにやら真剣な顔でリシュと話し込んでいる。
「リシュくん、何があったの!?」
二人は心結が攫われた一部始終をこのトビネズミ達から聞いた。
「なんてこと……!!」
ミュゼはその場に泣き崩れた。
そこにちょうどラウルとアレクシが帰ってきた。
「ミュゼ!!」
「あなた!!」
二人はヒッシと抱き合った。
「無事だったか……。何故泣いている」
アレクシはミュゼの涙を拭った。
「あなた、ごめんなさい。ミュー様が……」
「心結に何かあったのですか!」
ラウルが牙を剝きだして吼えた。
余りの殺気にその場にいたアレクシ以外は恐怖に震えた。
「この方達が……」
獣耳を震わせて、尻尾を股の間に挟んで震えながらも
リシュはトビネズミの方を指さした。
「あぁ?」
握りつぶさんばかりの勢いでトビネズミを掴んだ。
「ラウルさん、その方達は無関係です。
たまたま居合わせて一部始終をみていた方達です」
リシュは必死にラウルの腕に縋ってとめた。
トビネズミの番はラウルに握られたまま
口から泡を吹いて半分気絶していた。