132.まさかのラインナップ!!
ラウルとアレクシはそのページを穴が開くほど見つめていた。
闇のバザールの月で出品されるであろう特別商品。
目玉商品として書かれている商品は3つあった。
一つ目は可愛らしいフェネックの若い女の獣人。
詳細から見て恐らくリシュの姉だろう。
2つ目はなんと……りすば犬だった。
詳細からしてミュゼとしか思えない特徴だった。
そしてもっとも驚くのが3つ目だった……。
なんと異国の国からきた“人型”と記されていた。
詳しい詳細は書かれていなかったが……
ある国の王家の容認があり偽物ではないと書かれていた。
間違いなく心結の事だろう……。
エーデル妃の置き土産がこんなところまでに
飛び火しているとは思わなかった!!
セラフィンは心結を手元に置くつもりだったようだが
エーデル妃はそうではなかったという事か。
本当に恐ろしい女だ……。
どんどんラウルの怒りで部屋の温度が下がっていく。
「狼の旦那、おちつけ!!
って俺もかなり動揺しているがな」
大の男二人がかなり挙動不審になっていた。
「心結達があぶない、今日は帰りましょう」
「あ……ああ」
二人は動揺が顔に出ないように、支払いを済ませると
そのまま店をでた。
〈あのギースという男、どこまで俺たちの事をわかっていて
あれを見せたのだろう〉
そんな事を考えながらもラウルたちは家路を急いだ。
その途中だった……。
何か言い争う男女の声が聞こえてきた。
「…………て……くだ…………」
「いいから、こいよ」
どうやら女の子に男二人が絡んでいる様だった。
周りに人はチラホラいるのだが、皆そそくさと通りすぎて
いっている様だった。
「ふぅ…………」
本当は目立つことはしたくないし、面倒はごめんだと思った
ラウルだったがアレクシに目配せをした。
〈心結なら必ず助けるだろう……
むしろ率先していくだろうな、こんな時……〉
「お前さんならそうだろうな」
そう言ってアレクシも肩をすくめると頷いた。
揉めている所に近づくと、どうやら少女のフェネック獣人に
インパラ獣人の若い青年二人が絡んでいる様だった。
「やめてください……
謝っているじゃないですか……」
少女は既に涙目だった。
「そっちがぶつかってきたんだろ。
どうするんだよ、お前にこの服弁償できるの?」
そう言うとインパラ獣人はニヤニヤしながら
少女の手を掴んだ。
「ですから、洗濯代をお支払いしますと何度も
言っているではないですか」
「そんなじゃ気が済まないんだよ。
もっと誠意をみせてくれないとな」
そう言ってさらに意地悪く笑った。
どうやらその少女の持っている果実酒がぶつかった拍子に
インパラ獣人の服にかかってしまったようだ。
「いいから、こいよ。
一晩つきあってくれたら許してやるよ」
「やだ……」
その時だった、少女の手を掴んでいる手をラウルが
叩き落とした。
「っ……痛ぇ!! なんだお前!?
じゃますんなよ」
そう言ってふりかえったインパラ獣人だったが……
「あぁ?」
ラウルの地の這うような怒り声と殺気に一瞬怯んだ。
「うちの者が何かしたのか?」
そう言って牙を見せながら唸った。
「えっ? その……」
まさかの肉食獣であろう、しかも上位の獣人の登場に
インパラ獣人達は冷や汗をかき始めた。
姿形はみえなくても、自分より上位のものは
わかってしまうのが獣人だ。
悲しいかなDNAに組み込まれたサガなのだろうが
どうも草食動物は肉食動物に弱い……。
「何か問題があるのかときいている」
仮面越しとはいえラウルに凄まれている。
「いや……その」
もうこうなったらしどろもどろになるインパラ獣人だった。
そこにアレクシが追い打ちをかける。
「お使いもまともにできないのか、お前は……
帰ったらわかっているな」
そういってアレクシは少女を少し強引に自分の方に
引き寄せた。
「ご主人さま、後は私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか」
ラウルは黙って頷いた。
そんなやり取りに恐怖を感じたのだろう……
その隙にインパラ獣人達は走って逃げていった。
「あっ……逃げやがった」
ラウルとアレクシは呆れたがそのままほっておくことにした。
「大丈夫ですか?お嬢さん
強引な真似をして怖かったでしょう」
そういってラウルは微かに微笑んだ。
「いえ、助けて頂きありがとうございます。
お二人が助けて下さらなかったらどうなっていた事やら」
その少女は自分の震える身体を抱きしめた。
そう言った少女は少し足を引いて歩いていた。
どうやらそんな少女に目をつけて、わざとぶつかって
きたらしい……。
ラウルとアレクシはなんとも言えない気分になった。
また何かあったら困るので二人はそのまま少女を
家まで送った。
「本当にありがとうございました」
丁寧に少女はまた二人にお礼を述べた。
「いや、大したことはしていない。
どうか気をつけて」
そして再び二人は家路へと急いだ。




