130.モフモフ帝国を作りたいのですが
その頃心結は幼体フェネック達と一緒に洗濯を干していた。
一宿一飯の恩義とでもいったらいいのだろうか。
天気もいいので中庭に全員集合していた。
「は~い、今から皆でシーツを干します!」
そう言って幼体フェネック達を一列に整列させた。
「二人ずつペアになってね。
たくさんあるからちゃちゃとやるわよ、いいわね。
じゃぁ……行くわよ!
気合を入れる為にあれやるわよ」
心結は拳を振り上げて声高々に叫んだ。
「ケモーニャ!ケモーニャ!」
すると幼体フェネック達も可愛らしい声で一斉に叫んだ。
ミュゼもリシュも笑いながら一緒に叫んでくれている。
「ケモーニャ!ケモーニャ!」
「ケモーニャ!ケモーニャ!!」
(かわえっぇぇぇぇぇぇ!!
これよ、これ、一度こういう事やってみたかったのよね。
悪の秘密結社の某総帥の気分だわ……フフフ。
うるうるおめめと一所懸命さが可愛くて震える)
心結は満足そうに頷いた。
昨日の夜、心結はこの可愛いモフモフ達のプチ帝国を
作りたくなり、勝手に総帥に名乗りをあげた。
そこで合言葉を作ろうということになり出来たのがあれだ。
何故か幼体フェネック達もノリノリで参加してくれたのであった。
「モフモフ帝国万歳!! 」
きゃっきゃ言いながら、楽しそうにシーツを干すのであった。
「お前の嫁さん本当に変わっているな……。
ついに帝国を立ち上げたようだぞ。
モフモフへの執着心ヤバイな……」
「なんか……本当にすみません」
そこに偶然通りかかったラウルとアレクシは
なんとも言えない表情でその光景をみていた……。
無事に洗濯も終わり、心結達はお茶をしていた。
心結の膝の上には幼体フェネック達が
入れ代わり立ち代わり寛いでいた。
(フフフ……可愛い)
終始だらしないデレた顔で幼体フェネックを撫でていた。
「そう言えば、ミュゼさん。
この国の国民が信仰している神様はいるのですか?」
心結はハタと自分の目的を思い出しきいてみた。
「そうですね、はっきりとまだこれという神様は
決まっておりません。
が、土地柄といいましょうか……。
幸運や財宝の神“ヘルメース”様は人気がありますね」
「財宝ですか、この街の神様らしいですね」
「幸運と財宝を司り、狡知に富み詐術に長けた計略の神様。
盗人、賭博、商人、交易、市場などを司る事もあり
祀っている商店は多いと思います」
「ヘルメース様の神殿はないのですか?」
「ないですね。
そのかわりどこの商店でも必ず店の何処かに
祀ってある棚があると思いますよ」
そう言ってミュゼは尻尾を軽く揺らした。
「こちらのお店にもありますか?」
「ありますよ、うちは特に大事にしておりますので
庭の一角に小さいですが祠がありますよ」
心結は食い気味に言った。
「ぜひ!! お参りさせてください」
「は……はい」
心結のあまりの食いつきにビクッとなるミュゼだった。
(よし!!
新しい神様情報ゲットしたぞ!
これでまた新しい肉球の欠片が手に入るかも……)
そう思った心結だったが、嬉しさ半分寂しさ半分という
複雑な思いが胸をよぎった。
今までは元の世界に一刻も早く帰りたかった。
しかしこのモフモフに囲まれてラウルさんと過ごす日々も
悪くないと思う自分がいるのも確かだ。
でも……このままこの世界に残ることが
果たしていいことなのかわからないのも事実だった。
とにかく今は前に進むしかない。
そう思って心結は今のモヤモヤの気持ちに蓋をした。
一時間後……。
心結は大量の果物が乗った皿を片手に祠に向かっていた。
ミュゼさんに頼んで、一人で祠にお参りをさせて貰った。
庭の隅にそれはあった。
その祠の中には、黒曜石で出来たかなり細マッチョな
イケメンの像が納められている。
「イケメン……」
(ギリシャ神話の彫刻みたいだ。
頭に月桂樹の冠も被っているし……。
イケメン神様っていうことでも人気あるんじゃないのかな)
果物を供えると、その場にひざまづいて祈った。
(幸運や財宝の神“ヘルメース”様。
いらっしゃいますでしょうか……)
「…………」
数分そのまま祈ってみたが、反応なしと。
(幸運や財宝の神“ヘルメース”様?)
どうやら返事がない。
こんなに無反応なのも珍しい。
(あれ、違ったかな。
神様違いだったかな……)
心結は立ち上がると祠を後にした。
その心結の後姿をフェネックとは違うモフモフが
そっと祠の陰から見ていた。
(あれが噂の聖女か……気がのらねぇわ。
俺のタイプじゃねぇしな)
そう言ってそのモフモフは消えた。




