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128.モフモフのロマン

少年は自分の身の上を語りだした。


「両親が早くに亡くなりました。

だから姉ちゃんが俺たちを養う為に街へ働きに出ていました」


そう言って少年は深く深呼吸した。

どうやら心を落ち着かせる為だったらしい。


いまから語ることは少年とって辛い事なのだろう。


「今までは、昼間だけ街の定食屋に勤めていました。

俺たちの種族はあまり働ける場所が少ない……。

それに若い女は危険が多いんだ」


「…………。

見た目が可愛らしいのでかどわかされる事も多い。

中には自分からそれを利用して夜の蝶になったり

貴族の愛人になる者もいるのも現実だ」


「あなた!!」


あけすけな物言いにミュゼがアレクシを窘める。


「す……すまん」


シュンとするマッチョな男……。


「いいえ、その通りです。

だから普通は内職や裏方などに徹底しています。

若い女は表にはあまり出ない事が多いのです。

でもそうするとあまりお金を稼げなくて……」


小さいころから厳しい環境で育っているのだろう。


少年はわかっているというようにまっすぐな瞳で

アレクシの言葉を真正面から受け止めていた。


そんな達観した幼い少年の姿に……

心結を始めそこにいた大人たちは痛ましい気持ちになった。


そんな雰囲気を察したのだろう。

フェネックの少年は取り繕う為にわざと明るい声で続けた。


「それでも小さいながらも日々幸せに暮らしていました。

でも……こいつ達が病気になって」


そういって、籠から2匹の幼体フェネックを取り出した。

確かに他の子と比べると、毛艶もよくないし痩せている。

他の子と違って目の色が赤い!?


「アルビノですか……」


ラウルがポツリと呟いた。


先天的なメラニンの欠乏により毛や皮膚が白くなる疾患だ。

毛細血管の透過によって赤い瞳孔なるんだよね、確か。


「極端に細菌に弱い個体です。

だからいつも病気をしていて……。

薬代を稼ぐために今の宿屋の仕事に変わりました」


「…………」


「宿屋のオーナーはいい人なんだ。

けれどそこの息子が……」


そう言ってフェネックの少年はギュッとシーツを握った。


(あーさっきのあの男かな。

どうせ……俺のモノになれ!!

とかいってこっぴどく振られたくちだろうけどさ。

あんな奴じゃ振られるでしょうよ、えぇ)


「心結……思ったことが全部口に出ていますよ」


「えっ!? ご……ごめん」


心結は無意識のうちに全部言葉にだしていたらしい。

その事実に真っ赤になりながら狼狽えた。


「プッ……その通りです。

姉ちゃんは奇麗で凄い頑張り屋なんです。

だから毎日のように言い寄られていて……」


初めて少年が微笑みを見せた。

しかしすぐに悲しい瞳に戻って話を続けた。


「俺……貧しくてもいいから。

姉ちゃんにいつも笑って過ごしてほしかったから

今の宿屋の仕事やめてくれるように頼んだんです。

そしたら姉ちゃんもわかったって言って、でも……」


涙ぐみながら言葉を詰まらせた。


「帰って来なかったんだな」


アレクシは眉間に皺をよせながら唸った。


黙って頷いて、掠れるような声で続けた。


「実は昨日……俺の誕生日でした。

ケーキを買ってくるから皆で食べようって言って

姉ちゃんは明るく家をでました」


(誕生日だったのか!!

そんな日に男と駆け落ちするわけないな)


「だから、姉ちゃんが黙っていなくなるなんて

ありえないんです」


そう言って悲しそうに瞳を伏せた。


「まいったな……」


アレクシをはじめどうしたらいいか困り果てていた。


少年の言い分もわかる。

でもそれはあくまで推測の域をでない出来事だ。


今の時点ではっきり言ってできることはない。

何も証拠も目撃情報もないのだ。


「ひとまず今日はここまでだ」


そう言ってアレクシは心結達に此処に泊まっていくように言った。


「助けて頂いて、ありがとうございました。

俺たちは帰ります」


そう言ってフェネックの少年はベッドから降りようとした。


そんな少年に対してアレクシが優しく言った。


「お前たちも泊っていけ。

部屋はたくさんある、子供が変な遠慮するんじゃねぇ」


「でも……俺たちそんな身分じゃ……ない」


「いいから、お前は早く傷を治すことを考えろ。

姉ちゃんを助けたいんだろ。

それなら元気でいないとな」


そういって少年の頭を乱暴に撫でた。


「はい……」

涙がこぼれて止まらなかった。


「はい、薬草スープですよ。

これを飲んで早く治しましょうね」


ミュゼがスープを片手に優しい笑顔で立っていた。



「じゃぁ、幼体フェネックちゃん達と私はお風呂に

入ってくるね~」


心結は嬉しそうに籠を持って移動しようとしていた。


「まて、心結……。

どさくさに紛れてお前何を……」


ガッと籠ごとラウルに掴まれた。


「えっ?至福のモフモフバスタイムのお時間なんですけど?」


「はっ?」


「極上のモフモフにまみれて……

泡風呂に入るのは全世界のモフモフスキーのロマンじゃろがい」


じゃましないでよ、もう!

くらいの勢いで心結は力説していた。


どういうことだよ、おい。

モフモフスキーのロマンって何だよ……。

心結以外の全員がドン引きしていた。


〈噂に聞いている以上のモフモフ好きの変態だ、この人〉


ミュゼは遠い目になっていた。

その顔はディーヤそっくりだったという……。


〈このお嬢ちゃん、正気か!?〉


アレクシもあった事のない種類の変態にドン引きしていた。


綺麗なお姉さんに囲まれてお風呂とか……

やばい権力者の男が夢見るシチュエーションとかわらない

ノリだぞお前……。


俺だって心結と一緒にお風呂に入りたい……

じゃなくて、ちがうだろ!!


ラウルは心底げんなりしていた。


そんな人たちを横目に心結の行動は素早かった。


「少年、いいよね、ね、ね!! ね!!」


ふんすふんすと鼻息荒く心結に詰め寄られ

フェネックの少年は、思わず首を縦に振る以外の選択肢はなかった。


「よし、ご家族の許可も貰ったし~

楽しみだな~フンフフン~。

モンチラまみれもご褒美だったけど……。

フェネックまみれもこれまた至福の時間……いやっほーい」


「心結……」


ラウルは獣耳と尻尾を下げて情けない声をあげた。


「邪魔したら……ラウルさんと今日一緒に寝ないから」


ピシャン……

衝撃を受けたようにラウルは固まった。


心結はご機嫌な鼻歌を歌いながらバスルームへと消えた。


「旦那さんよ、いいのかい、あれ」


憐れむ様にラウルの肩に手をおくアレクシ。


「…………」


そこには軽く燃え尽きた狼がいたそうな。


言うまでもなく変態レベルがうなぎ上りだったのは

想像に難くないだろう……。


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