127.ブレスレットの威力
そんなものぶっ壊してやるわ!!
モフモフスキーの力なめんなよ!!
「大きな力って、どういう意味ですか」
心結は震える声で尋ねた。
ミュゼとアレクシは言いあぐねている様だった。
そして困ったようにラウルを見た。
「心結……。
お二人を困らせてはいけません。
国にはその国独自の決まりがあるのです」
ラウルは言い聞かせるように……
そして慰めるように心結の肩を優しく抱いた。
「だって……。
あんなに必死に小さい子が訴えているんだよ。
嘘だとは思えない……」
やり切れなかった。
心結自身も彼の姉の身に何が起こったのかは薄々感じていた。
しかしそんな事は到底許されることではないはず!!
そう信じたかった。
「ミュー様、彼のブレスレットをみてください」
そう言ってミュゼは獣体の右前足に嵌っている
ブレスレットを指さした。
そこには明らかな違いがあった。
白い宝石が一つ嵌っていた。
「白い宝石が一つ?」
「そうです、それが彼の身分なのです」
「身分……」
「ミュゼは赤い宝石が二つ。
これは商人でありこの国の住人として認められた証だ。
俺は宝石が三つ。こうみえて俺は貴族だ。
爵位は高くないけどな……」
(アレクシさん貴族だったんだ。
ガゼルの獣人という事も関係しているのかな……)
「そして白は……労働者階級だ。
聞こえはいいが、はっきり言って奴隷と同じだ。
だから立場が弱い。
フェネックの種族は見た目が愛らしいからな……。
若い女は特に人気がある、そういう事だ」
心結はその一言に立っていられなくなる。
ラウルがガッと倒れそうになる心結を抱きとめた。
「どうしてそんな事がまかり通るんですか!
理解できない……どうかしている」
心結は唇を嚙みしめた。
酷いことをいっている自覚はある。
こんな事をアレクシさん達に言ってもしかたがないと
わかっていても気持ちがおさまらない。
「そういう国なのだ……。
ランベール王国のような平和な国のお前らには
理解できないだろうよ」
そう言ってアレクシは自嘲するように顔を歪めた。
「姉ちゃん……ねぇ……ちゃん」
フェネックの少年が譫言の様に言うのをきいて
また涙が零れそうになった。
そんな心結の視線に気が付いたのだろうか……
少年がうっすらと目をあけた。
「…………!!」
そしてカッと目を見開くと飛び起きた。
「ここはどこだ!?
お前はさっきの狼獣人のねえちゃん!!」
周りを見渡せば、ガゼルの獣人に狼獣人……
遠くにはキツネの獣人もみえる。
少年は激しく狼狽えた。
更にベッドの横にある籠の中に眠る兄弟たちをみて驚き
自分たちの置かれている状況を悟ったらしい。
間違った方向だったけれど……。
だからだろうか、牙を剥き出して唸った。
「姉ちゃんだけじゃ飽き足らず……
俺たちまで商品にするつもりか!!」
今にも心結に飛び掛かろうとしていた。
ラウルが構えて一触即発かと思われたが……。
「それはちがいます」
ミュゼが出てきてきっぱりと否定した。
「あんたは……」
ミュゼの顔を見たとたん、フェネックの少年は大人しくなった。
「知り合いか?」
アレクシさんが不思議そうに聞くとミュゼは軽く頷いた。
「俺たちが食べ物を買いに行っても嫌な顔をひとつせずに
適正価格で売ってくれるひとだ」
ポツリとフェネックの少年は言った。
「ミュー様達はあなたを助けてくれたのよ。
まずはお礼を言わないとね」
ミュゼはニコニコしていたが、お礼言うよね!ね!と
無言の圧力は半端なかった。
やっぱりディーヤの兄弟だわ、そう言うところ。
「あ……ありがとうございます?」
どぎまぎしながらフェネックの少年は心結達に頭をさげた。
「どういたしまして。
所で何があったか詳しく教えてくれる?」
「…………」
少年からは怯えと強い不安が伝わってくる。
(まぁ……いきなり見ず知らずの人に言えないよね
それならば奥の手を使っちゃいますか)
心結はラウルの腕に自分の腕を絡ませてから
少年に二人の腕のブレスレットをみせた。
「私と旦那様なら力になれるかもよ?」
少年は心結に促されるままに、二人のブレスレットを
改めてジッとみつめた。
「宝石が4つだと!!
あんたたちは一体何者だ……じゃなくて何者ですか?」
フェネックの少年は目をぱちくりさせていた。
驚きを隠せない様子だった。
そんな中ラウルは心結が腕を絡ませてきた事といい……
さっきから自分の事をぎこちないながらも主人と
呼んでくれる事に内心感動の嵐が吹き荒れていた。
〈俺の心結……可愛すぎるだろう。
このまま本物の番になっても一向にかまわない〉
冷淡な表情で冷たい碧の瞳でフェネックの少年を
見下ろしていたが……
尻尾は密かに後ろで高速で左右に振られていた。
〈奥さん大好きなんだな〉
〈嬉しいのね……以外に可愛らしい方なのね〉
ミュゼ夫妻に密かに生暖かい目でみられていたことを知らない。
「何者って……。
通りすがりのモフモフスキーですが?」
「へっ?」
少年は心結の言っている意味がわからずぽかんとした。
「じゃなくて、ただの桐嶋心結だよ」
「その夫のラウルだ」
〈よくわからないけれど、この人達ならもしかしたら
姉ちゃんを取り戻してくれるかも〉
それほど宝石4つのブレスレットを持っているという事は
この国では力の象徴だった。