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126.砂漠の天使

少し街外れに進んだのだろう。

やがて景色が静かな住宅街になっていった。


相変わらず水路が縦横無尽にはりめぐらされていた。

しかし若干水が濁っている気がする……。


「どっちに行ったんでしょう」


心結とラウルは少年をおって血の跡を頼りに進んだが

それもここで途切れていた。


心結は辺りをキョロキョロ見渡した。

すると家と家の間の狭い路地に何か白いものが

落ちているのがみえた。


「ラウルさん、あれ」


二人がそこに駆けつけてみるとそれは獣体だった。


「こ……これは!!」


心結は感動で震えた。


(砂漠の天使……フェネックだぁぁぁぁぁ!!)


犬のようなキツネのようなかわいらしい外見と

柔らかな体毛がたまらない最高モフモフ。


もちろん尻尾もすこぶるモフモフ……。

三角耳がとても大きいのも特徴的なモフモフよね。


はぁぁぁぁ……一日中モフり倒したい。

心結はウットリと眺めながら一瞬あっちの世界に

トリップしていた……。


いやいやいや。

感動している場合じゃない、怪我をしてぐったりしているから。


「どうやら先ほどの少年のようですね。

力尽きて獣体に戻ってしまったようです」


ラウルはそっとフェネックを抱き上げた。


その時だった、奥の路地からたくさんの光る目がこちらを見ていた。

それはだんだんと増えていった。


「ラウルさん……

なんか怪しいものがたくさんこちらをみているのですが」


「はい?」


すると転がるようにそれらが出てきた。

そしてラウルや心結の足元にやってきてどうやら噛みついたり

引っ掻いたりしている様だった。


「ふぇ?」


しかしあまりにも幼体すぎて、全く痛くない……。

むしろ可愛すぎて心結にはご褒美だった。


それは幼体フェネックの群れだった……。


(私を気絶させる気か!!

何、ここは天国なの……女神様ありがとう!!)


「ラウルさん……天使が足元に集結しています!

天使に囲まれています」


心結は幼体フェネックを見渡しながら身悶えしていた。


しかし当のフェネック達は精一杯威嚇しており

口々に“兄ちゃんを離せ”と訴えていた。


「この獣体の兄弟でしょうか」


「どうしましょう、可愛すぎて心臓が持ちません」


「…………」


(心結のモフモフスキーは、もはや病気ですね……)


ラウルは呆れたようにため息をついた。


ひとまずこのままでは埒が明かないので……

心結達はすべてのフェネックを捕獲した。

それらをラウルのコートにくるんでその場から離れた。



このまま宿屋に戻るわけにもいかなくなり

ディーヤの7番目の妹さんを訪ねる事にした。


何かあったら妹を訪ねてください。

これを見せれば必ず力になってくれますから!


といってディーヤが私に持たせてくれたものがある。

まさかこんなにも早く使う事になろうとは思っても

みなかったな。


「住所によるとここだな」


ラウルは看板を見上げて呟いた。


その店は大通りから1本入った所にあった。

老舗らしくかなり落ち着いた雰囲気の雑貨店だった。


「すみません。

こちらにミュゼさんはいらっしゃいますか?」


店番らしい若いキツネの獣人に尋ねた。


そのキツネ獣人は訝しげにラウルと心結を上から下まで見ると

慇懃無礼に言った。


「どちらさまでしょうか?」


明らかに疑っているような口ぶりだった。


「これは失礼いたしました。

ディーヤ嬢と同じ屋敷で働いている者です。

そしてこちらは私の妻です」


そう言ってラウルは丁寧にお辞儀をした。


「…………待っていてください」


渋々そう言うと店の奥に消えて行った。


そして数分後……

今度はガゼルの獣人と共に戻ってきた。


「お前さん達か、ミュゼに用事がある狼獣人は」


その大きな男はガゼルの獣人だった。

右の角の先が半分ほど欠けており……

額にも大きな傷があるなかなかの迫力のある男だった。


(草食にあるまじき筋肉と迫力……)


心結はあまりの迫力に少し狼狽えながらも挨拶をした。


「はい、しゅ…主人共々お世話になっている者です。

これをディーヤから預かってきております」


そう言って、手紙と共にペンダントを渡した。


それはミュゼとディーヤがお揃いで作った

世界に二つしかないペンダントらしい……。


それを見るとガゼルの獣人は目を見開き

そして大きな声で言った。


「ミュゼ、お前に客だ」


「は~い」


奥から可愛らしい声と共に小柄なりすば犬が姿を現した。


「あなたどうしたの?私にお客さん?」


そういって心結達をみた。


(旦那さんだったのか!!

この迫力あるガゼル獣人さんが、りすば犬の旦那さん……。

見た目だけだとどっちが肉食獣かわからないほどだよ)


心結はかなり内心驚いていた。


「まぁまぁ、あらあら」


そう言って嬉しそうに心結の手をとった。


「あなたミュー様ね。

ディーヤの手紙によくあなたの事がかいてあるわ」


そういってディーヤにそっくりな目元を緩ませて微笑んだ。

そして心結に寄り添うようにたっているラウルをみた。


「ラウル様、いつもディーヤがお世話になっております」


そういってぺこりとお辞儀をした。


「いえ、こちらこそディーヤにはいつも妻が助けられております」


そんなやり取りを横目で見ていた男は徐に言った。


「間違いないんだな」


ガゼルの獣人はミュゼに問うた。


「ええ、本物です。間違いありません」


「ふぅ……二人ともすまなかった。

時期が時期だろ、変なやからが多いんだ。

それに……妻はこの街では珍しい種族なんだ。

だからそのつい厳重になってしまう、すまん」


そう言ってきまり悪そうにしながらも丁寧に頭をさげた。


「フフ……ミュゼさん愛されていますね」


心結がそう言うとミュゼは恥ずかしそうに頬を染めた。


「ありがとうございます。

でも、ミュー様には負けますよ……」


そう言って揶揄うように笑った。


「えっ?」


逆に今度は心結が真っ赤になった。


(あんなにマーキングされているなんて……

噂にはきいていたけど狼の溺愛は想像以上だったわ)


のちにミュゼはそうディーヤに語ったらしい。


と、ラウルの背中に背負われていたコートで作った

即席の袋から“出せー”と可愛らしい声が聞こえた。


「そうだった!!」


心結達は先ほど起こったことを簡潔にミュゼ達に話した。


ミュゼ達は何か言いたげな顔をしていたが

先にフェネックの少年の獣体の手当てを施した。


10匹の幼体フェネックは大きな籠に入れて果物を与えた。

最初は暴れて抵抗していたが、こちらが危害を加えないと

悟ったのだろう。


今は籠の中でお昼寝タイムに突入していた。


「正直言ってかなり厄介事だなこれは。

俺達にできる事はすくないかも知れん……」


ミュゼさんの旦那さん“アレクシ”さんは

深くため息をついた。


「こういう事ってよくある事なんですか?

人が一人いなくなっているんですよ」


心結は釈然としない気持ちをもちながらも必死に訴えた。


「二つの可能性があるからな。

まずは本当にそのこの姉ちゃんが男と逃げた場合。

そしてもう一つは……

何か意図して大きな力が働いた場合だ」


アレクシさんは苦しそうにそう言った。


「えっ……」


心結の瞳が動揺に揺れた。

そして縋るようにラウルを見上げた。


しかしラウルも困ったように眉を下げると

無言で首を横に振った。




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