120.友達以上恋人未満!?
心結は戸惑っていた。
これはどう受け止めたらいいのだろうか?
いつもと変わらない朝食の風景のハズなんだけど何かがおかしい。
皆の生暖かい視線も居心地悪いのだけど……。
それ以上に気が気じゃないのがラウルさんの視線……。
目が合うたびに蕩けるような瞳で微笑むのは何故だろう。
今までとは180度違う態度に困惑は隠せない。
(友達になったらこんなに距離つめてくるタイプだったのか?)
そう思いながらも心結の頬が今まで以上に赤く染まった。
「なんだ、なんだ……今日は暑いな」
そんな心結達の様子をみながらジェラールは揶揄うように
顔を仰ぐようなしぐさをした。
それからラウルを近くに呼び寄せて肩をくんで引き寄せると
心結に聞こえないように耳元でそっと呟いた。
「うまくいったのか?きめたのか?ん?
お前まさかいきなり心結ちゃんに……」
そんなジェラールの手をやんわり払いのけながら
氷のように冷たい表情で言い返す。
「あなたじゃあるまいし、そんな事をするわけがないでしょう」
「照れんな、照れんな。
あー、もう直接心結ちゃんに聞いてみるわ」
今度は心結の方に向きなおった。
「心結ちゃん、昨日は何かいい事あったか?」
ニヤニヤしながらジェラールが聞くと
心結はとびきりの笑顔でこう答えた。
「はい、ラウルさんと友達になりました」
「…………」
その一言に食卓が一瞬静まり返った。
心結のまさかの発言にジェラール一家は目が点になっていた。
「友達だと?」
信じられない様子でジェラールが呟くように言った。
「はい、やっとその位置まで上がってこられました。
嬉しいです……」
心結は照れくさそうに微笑んでいた。
〈このヘタレ狼!!〉
イリスを始めそこにいた全員が心の中で突っ込んだ。
『キュ……』
幼体モンチラ達までため息をついている。
「…………」
「ラウル、後で執務室へ来い」
「はっ……」
ラウルはこれから起こるであろう事を思ってため息をついた。
数十分後……。
案の定、機嫌の悪いジェラールが執務机に頬杖をつきながら
ラウルを冷ややかな視線でみていた。
「で?」
尻尾もビタンビタン椅子に叩きつけている。
「…………」
「ジェラール叔父ちゃまは悲しいぞ。
ラウルがこんなヘタレ狼だったとはな」
大袈裟に泣きまねをしながら、机に突っ伏した。
「お前心結ちゃんになんて言ったんだ?
ちゃんと気持ちは伝えたのか?」
「…………言ったつもりです。
自分にとって大切な人だと伝えました。
うまく伝わらなかったみたいですが……」
ラウルはしどろもどろになりながら視線をそらした。
尻尾もだらりと力なく下がっている。
「ちゃんと異性として好きだと目を見て伝えたのか?」
「あっ……」
ラウルはがっくりと肩を落とした。
〈好きだとは言ってないな……。
拗らせるのも程があるぞ〉
ジェラールはそんなラウルの表情から悟ったのだろう
釘をさすように言った。
「心結ちゃんは恋愛に疎い。
はっきりと告げなければ永遠にお友達で終わるぞ。
その癖に異様にもてる。
うかうかしていると、コウモリや熊に取られるぞ」
「熊ですか?」
ラウルは新しいライバル出現に牙を剝きだした。
「シーブル王国の新国王になった男だ。
なんでもモンチラを通じて知り合いになったらしい。
いまお妃候補を探していてな。
もし心結ちゃんに決まった相手がいないのなら話を
通してほしいと打診があったらしい」
「グルルルルル……」
話を聞きながらラウルは苛立ちの為か唸りをあげていた。
「コウモリもかなりご執心だったらしいからな」
「心結は俺の番です。
他の誰にも渡したくはありません」
「その言葉を俺に言ってどうする」
ジェラールは苦笑した。
「わかっています。これからは遠慮なく口説き落とします」
〈狼は一度決めたら逃さないからな。
さぁーて、心結ちゃんはどうする?〉
心結は心結でイリスと女子会を開いていた。
「心結さん、ラウルの事をどう思っている?」
「えっ?」
いきなり直球の質問をされ挙動不審になる心結。
「ど……どうと言われましても……」
〈フフフ……意識はしているようだな〉
「いい男だろ、あれは外見も中身も……」
そう言ってイリスはウィンクをした。
「最初は陰険冷徹執事だと思っていました。
第一印象は最悪でしたよ。
でもラウルさんの生い立ちを知って……
不器用だけど誠実な人柄だって事はわかりました」
「凄く苦労をしてきた男だ。
この先どうなるかわからないが、この世界にいる間は
ラウルの事をもっと知ってやって欲しい」
「はい」
心結は力強く頷いた。




