12.メイドと護衛は見た!
その頃……
ラウルは、公爵の元へ向かう為に長い廊下を歩いていた。
〈クスッ……。
先ほどの異世界人の顔は、傑作だったな。
大きな瞳の紫眼が、零れ落ちるかと思ったくらいだ。
その後は、赤くなったり、青くなったり……
見ていて飽きない娘だ〉
普段は、よほどの事がない限り笑顔をみせない冷徹執事が
悪い顔で微笑みながらご機嫌で廊下を歩いている姿を
偶然見かけたメイドや護衛は、驚きと一種の恐怖を感じた。
〈ラウル様が……黒い微笑みを浮かべていらっしゃる!〉
〈あれは楽しんで獲物を、追い詰める時の微笑みだ……〉
と、その日の午後は屋敷中が……
その噂で持ちきりであったと後にメイドは語った。
“鑑定スキル”
それはラウルが持つ、特殊スキルの一つであった。
かなりレアスキルであり、持っている人は少ない。
本来ならば、黙って勝手に他人のスキルを鑑定するのは重罪である。
しかし今回は、特例中の特例である。
何者であるかを確かめる。
最優先課題だと特別に判断が下されたのだ。
〈もし公爵に……
ひいてはこの国に仇をなすような存在ならば
早いうちに排除しなければならない〉
足早に公爵の執務室へと向かった。
コン、コン。
ひと際豪華な扉をノックする。
「入れ」
「失礼致します」
机で何か書類を書いている男が顔をあげた。
「ラウル、異世界のお嬢さんはどうだった。
えらく美少女の人型らしいな」
大柄の男は、楽しそうにラウルに問いかけた。
が、ラウルは顔をしかめながら取り合わず
「……。本題に入らせて頂きます」
「なんだ、なんだ。相変わらず堅物だなお前は」
そんな執事の態度に、男はつまらなそうに口をとがらせた。
「姿かたちなど所詮入れ物みたいなものではありませんか。
美醜に興味はありません」
「お前が言うと嫌味にきこえるぞ、それ」
男は更に楽しそうに、ニヤリと笑った。
「で、どうだ」
「異世界人で間違いありません。
迷い人らしき記載もありました」
「危険人物かどうかは、今の時点ではわかりかねます」
「そうか……。他に何か特段気になった事はあるか?」
「気になる事と言えば……。
変態レベル6つきの称号を持っていましたよ」
男は、一瞬目が点になった後に
「……。ブハッ……アハハハハ!!
なんだそのある意味最強称号は!!
聞いたことねぇぞ…腹痛いわ」
机を叩きながら爆笑する公爵様であった。
「無類のモフモフスキー 変態レベル6です」
「ブフォッ……。
真顔で、しかも無駄にいいバリトン声で言うなよ。
ククククッ…俺を笑い殺す気か……」
涙を流しながら爆笑する公爵を
冷ややかな目で見ながら執事は話を続けた。
「知識の女神にひっそり見守られし聖女候補
という称号もありました」
「聖女候補か……。また厄介なものを」
「全くです」
冷徹狼執事は、大きな溜息をついた。
「まぁ、ここであれこれ言っても始まらねぇし、
ちょっくら美少女ちゃんに会ってくるわ」
公爵は、執務机の上をひらりと軽く飛び越えて
ラウルの前に着地した。
そしておもむろに……
トンッと人差し指でラウルの眉間を軽く押して言った。
「眉間の皺凄いぞ。
どうせお前の事だ、美少女ちゃんに意地悪してきたんだろ」
「…………」
主人の言葉に心外だというように片眉をあげた。
「いきなり知らない世界に落っこちてきたんだ。
少しは優しくしてやんな」
ポンポンと優しくラウルの肩を叩くと、公爵は部屋を後にした。