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115.私は女優……

心結はコウモリの後について静かな廊下を進んでいた。

王宮だというのに、不自然なくらい人を見かけなかった。


きっと秘密の通路を通って……

更に秘密の部屋で取引が行われるのだろう。


心結の両手首は金色の光る紐で縛られていた。

その先端はコウモリの右手首へと繋がっている。


〈別にここまでしなくてもよかったのですけどねぇ〉


コウモリことラオは内心密かにため息をついていた。


心結は現実味を出すためにこれは必要だと言った。

そうしないと何の抵抗もなく自ら来たみたいで嫌すぎる

と顔を顰めていたことを思い出し、思わず笑ってしまったくらいだ。



二人は古めかしい大きな扉の前に来た。


(あー、もう既に危険回避スキルが

ガンガン頭の中でなっています。

この部屋の中に入るのは気が重いなぁ)


心結はすでにげんなりとしていた。

ラオが案じる様に眉を寄せていたが、すぐに表情を引き締めた。


「それでは行きますか」


ラオと心結はその扉を開けて部屋の中へと入った。


そこには以前会った時のように、キラキラした王子様がいた。

金髪のふわふわ短髪に、端正な顔だち……

ピコピコ動くライオンの獣耳。


(見かけだけは完璧なんだよね、この駄目王子。

この前も思ったけど、なんでいつもマントを羽織っているのだろう?

王子様の正装なのか?)


ラオは無理やり心結をセラフィン殿下の前まで連れてくると

片膝をついてこう言った。


「遅くなって申し訳ございません。

姫様が思いのほかじゃじゃ馬でしたので……」


そう言ってニヤリと口元を歪ませた。


「待ちくたびれたよ、コウモリ。

噂程たいしたことないのだな……。

ほら、これが残りの金だ、受け取ったらさっさと消えてくれ」


そう言ってセラフィンは金貨がぎっしりと詰まった大きな袋を

3つラオの足元にむかって投げた。


(マジか……なにあの態度……ないわー。

いくら王族が慇懃無礼な人がわりに多いと言っても……

この人突き抜けてないわー)


心結は本気で引いていた。


そんな事は気にも留めず、ラオはすべて袋を拾って恭しく言った。


「確かに頂きました。

これにて契約は完了いたしました。

この先何が起きましても、私は関知しない事をご承知ください。

それでは、失礼します」


心結をチラッと横目で見てから、パチンと指をならした。

すると心結の手首の戒めがとけて消えた。


と、同時にラオも闇に溶けて消えて行った。


部屋にはセラフィンと心結二人きりになってしまった。

正確に言えば、心結の背中にはカモフラージュした

幼体モンチラが一匹張り付いていたのだが……。


セラフィンはさっきとはうって変わってご機嫌だった。

蕩けるような笑顔を振りまきながら……

嬉しそうに心結の元に駆け寄ると両手を取った。


(ヒィィィィ……手を握られたぁ)


心結は顔が引きつるのを止められなかった。

身体も反射的に後ずさりしたかもしれない……。


「ようやく僕の元に帰ってきてくれたね。人型の聖女。

あんな野蛮なもの達に攫われて怖かったでしょう。

でももう安心だから……僕がずっと守ってあげる」


心結の表情や態度が見えていないのだろうか?


セラフィンは構わず熱っぽい目で心結を甘く見つめて

一方的に思いをぶつけてくる。


「君の為にこの部屋を用意したよ。

ここなら誰にもじゃまされないで僕たちだけで幸せになれる。

君はここで僕の為だけに力をつかってくれればいいんだよ」


セラフィンはそう言って、長い紐のようなものを引っ張った。

カーテンかと思われていた物が横に折りたたまれていった。


そこには大きなガラス窓を一面張り巡らせた部屋が現れた。

部屋の半分が温室の様だ。

しかしおかしい事に……部屋の手前に鉄格子のようなものが見える。


(デジャブかな……この鳥籠版をみたことあるわ、私……)


「…………」


「ほら、中の家具は国で一番の職人の作だよ。

装飾が素晴らしいだろう……。

それに僕がいなくて寂しい時に慰めになると思って……

君の大好きなモフモフというのかな?

幼体モンチラを二匹入れておいたよ」


「えっ……」


心結がその発言に驚きながら中を必死に覗くと

やつれた幼体モンチラがベッドの上に怯えたように座っている。

二匹は固まって震えながらセラフィンから視線を逸らせていた。


逃げられない様に、魔法か何かで縛っているのだろう。

二匹の足には金色の輪っかのような物がついており

それから伸びた鎖のような物が柱に括り付けてあった。


(許せん!! モフモフになんてことを!!

あの一連の出来事はすべてこの人に繋がってくる。

そこまでして世界が欲しいかな……)


背中のモンチラちゃんにも密かに合図をしておいた。

きっと言葉を発しなくてもモンチラちゃんなら意図を汲んでくれるだろう。


心結は自分の怒りの感情が出ないように努めて冷静に言った。


「そこまで考えてくださっているのですね。

でもどうせならば大人のモンチラも一緒に欲しかったです」


セラフィンはそんな心結の発言に一瞬驚いていた。

が、すぐに愉快気に口元を歪めた。


「わがままなお姫さまだ。

この二匹の親モンチラも特別に入れてやろう」


「それならば今すぐ入れてください。

4匹すべて揃っていなければ嫌です!!」


心結は食い気味にセラフィンの言葉を遮って言った。


「…………」


少し不機嫌そうに片眉をあげて心結を見つめた。


(怯むな、ここで怯んだら負けだ)


心結は懇願するように上目遣いでセラフィンを見つめた。

いっそあざというぐらいのうるうる瞳で見つめてみた。


(私は女優!! 今だけアカデミー女優になるのだ!!

お遊戯会で街人その他1しかやったことがない私だが

できるはず……私はできる子!!)


「フ……仕方がない子ですね」


セラフィンはそんな心結の様子がお気に召したのだろう

心結の頭を撫で、そのまま頬を撫でた。


そしてそのまま大きな水晶玉のような物にむかってこう言った。


「俺だ、例の物の残りを至急ここにもってこい」


(よし!第一段階はやりきった。

長袖着ていてよかった、全身じんましんが出ているわ、これ)


「殿下、待っている間に幼体モンチラを近くでみてもいいですか」


「構わない」


心結は鉄格子ぎりぎりのところまで近づいていった。


『キュ……』


心結の姿をみた二匹は怯える様に弱々しく鳴き直ぐに目を逸らした。


「モンチラちゃん」

心結は優しく呼びかけた。


二匹はギュッと固まったままこちらを見ようとしない。


その時だった、先ほどの水晶玉が急に光を放つと

殿下直属の部下と思われる人の声が聞こえた。


「殿下……申し訳ございません。

少し手間取っております、もう少し時間を頂けますでしょうか」


「何故だ!!」


(なにか揉めているみたいだな、よし!チャンス!この隙に)


心結は殿下から自分の姿が後姿しか見えないことを利用して

腕の中に幼体モンチラちゃんの姿を現させた。


「モンチラちゃん、こっちをみてお願い」


そんな心結の言葉にも耳を貸さないモンチラ達。

だから賭けに出たのだろう……


『キュ!キュキュ!』


心結の腕の中の幼体モンチラちゃんが小さく鳴いた。


すると中の二匹は驚いたようにこちらをみた。


『キュ、キュキュキュキュ』


このわずかな時間で心結達は言葉をかわし作戦を伝えた。


「いいから早く持ってこい、使えない奴らだ」


セラフィンは苛立たし気に頭を掻きながらソファーに座った。

心結はそんな様子をチラッと横目で確認すると深呼吸した。


そして合図を送った。

すると檻の中の幼体モンチラが今まで出したことのない声で鳴いた。


『ギュゥゥゥゥ!! ギュウゥゥゥゥゥ!!』


『ギュギュグルルルギュゥゥ!!』


あまりの声の大きさに、ソファーから思わず飛び上がったほどだ。


「一体なんなんだ!?」


「殿下、モンチラはどうしたのでしょうか」


心結も心底わからないというように首を傾げてみせた。


「こんなこと初めてだ。黙れ!黙れ!」


セラフィンは鬱陶しそうに檻の前までやってきた。


「どこか身体の具合でも悪いのでしょうか。

ハッ!まさか病気!?」


心結は顔を青ざめさせて両手を口元に持っていった。


「まさか……生きのいいヤツだったはずだ」


しかし狂ったようにますます鳴き続ける幼体モンチラ。


「様子を見た方がいいのではないでしょうか」


「…………そうだな」


セラフィンは檻の一部を解除すると中に入った。

その時だったモンチラ達は突然苦しみ始めた。


「なっ、おい、どうした」


幼体モンチラはセラフィンの手の中でぐったりとしているようだ。


「殿下何があったのですか?」


「モンチラの様子がおかしい」


流石のセラフィンも焦っている様だ。


「いけません。こちらに持ってきてください。

もしかしたら何かお力になれるかも」


「いや……しかし」


セラフィンは迷っているようだった。

檻の中から出したらいけないと……

誰かから言われているのだろうか?


「聖女よ、お前がこの中に来て看てくれないか」


心結は申し訳なさそうに眉尻を下げながら言った。


「早くしないと助かるものも助かりませんよ。

私の力は広い空間でなければ使えません、さぁ早く」


セラフィンは渋々魔法の鎖を解いた。




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