110.海の愉快な仲間達大集合!?
決行当日、心結は朝早く密かにセレスト王国の海岸にきていた。
海岸といっても、すぐ後ろに険しい崖がせまっていた。
それが何十キロと続いているそうだ。
砂浜の部分は、ほとんどないに等しかった。
これでは港はおろか、船を停泊させることも難しいだろう。
だから港はセレスト王国で一つしかないらしい。
勿論……今そこはイヌワシ獣人のハゲオヤジの管轄下だ。
女神がいなくなり、物資に乏しいこの国ではこの港を
支配するものが国を支配すると言っていいだろう。
だからだろうか、江戸時代の関所か!?
というくらい入国も出国も厳しいチェックが行われるそうだ。
(観光には来たくない国ナンバーワンなんだろうな……
ますます国が衰退していくじゃないの!)
だから心結達は人目を忍んで、ワザと険しい海岸線まで
足を運んでやってきたのだった。
「本当にここでよろしいのですか?」
ラオは困惑気味に心結の顔を何度もみて確認した。
「大丈夫だと思います。
海が目の前にあるという事が大事なんです。
それよりも密輸船団が出航したのは間違いないのですね?」
「えぇ、見張りの者からの情報です。間違いありません。
シレーヌ様にもコウモリ便を飛ばしました」
(コウモリ便だと!?
どんなものだろう、小さいコウモリがやってくるのかしら。
ちょっと可愛いかも!気になるがそれは後だ!)
「では、私の秘策をとくとご覧あれ」
心結は大海原にむかって両手を突き上げて叫んだ。
「海のお友達~カモンッッッ!!」
「…………」
急に訳の分からない言葉を恥ずかしげもなく叫んだので
奇異な物でも見るような目でラオは心結をみた。
しかし辺りは静まり返っていた。
特に何かが起こるわけでもなく……。
静かな波の音が繰り返し聞こえるだけだった。
(あれ?言い方間違えたかな?
もっとカッコよく言わないと駄目だった?)
「いでよ!海の猛者達よ……我の言葉に答えるがいい!」
(中二病みたいなセリフを言ってしまった)
心結自身も若干真っ赤になりながら……
大海原を見つめていたが、特に変化はなかった。
(えっぇっぇぇぇ!! なにこの辱めプレイ……)
ラオの顔を見るのが恥ずかしくて後ろを振り返るのが怖い。
「…………」
声はしないが、肩を震わせて笑いを堪えている気配はする!!
(もうこれ以上、他の言葉を叫ぶ勇気はない
マーくん、一体何が正解なの?)
『キュゥ…………』
モンチラちゃんにまで、がんばれよと言わんばかり
ポフッと肩を慰める様に優しく肩をたたかれた。
(駄目だ……心がポッキリいってしまったよ。
特殊スキル 海のお友達が召喚できる レベル15
の壁は厚かったか……)
心結が涙目になりかけた時だった。
辺りが急にキラキラし始めて、海の中からそれは現れた。
「ドラゴン来たぁぁぁ!!」
「リヴァイアサン……」
ラオは目をパチクリさせていた。
目の前に現れたモノが信じられないようだった。
右に左にと視線をさまよわせてから、更にまた目の前のモノをみつめた。
青い鱗に覆われた大きなドラゴンが両翼の翼を広げて
長い首を下に下げて心結に挨拶をしていた。
『お呼びですか、聖女様』
「来てくれてありがとう」
心結はその長い首にぎゅっと抱き着いた。
『マラハン様から聞いております。
なんなりとお申し付けください』
「海を荒らしている悪い人達を捕まえたいの。
力を貸してくれますか?」
『聖女様の御心のままに……
どうぞ背中にお乗りください』
更に、首を低くして心結が乗りやすいようにしてくれていた。
そんな様子を固まってみていたラオだったが……
心結に名前を呼ばれ我に返った。
「ラオさんも早く、出発するよ!」
(あまりにも現実離れした出来事でしたので……
動揺してしまいました。
しかしとんでもない隠し玉をもっていますね……
さすが聖女様と言わざるをえませんね)
感心半分呆れ半分でラオもリヴァイアサンに乗ろうとした時だった。
『もうしわけございません。
私は男性を乗せない主義でして』
リヴァイアサンからまさかの拒否!!
「えっ?どうして!?」
『魔力が乱れるのです。
基本的に清い乙女しか私に乗ることができません』
「…………」
心結は面食らって唖然とする。
しかしすぐに羞恥のためか、耳まで真っ赤になった。
(変態コウモリの前でなんてことぶちまけてくれるんだ!!)
「ほう……それは興味深いですね」
ラオはにやにやとした笑みを浮かべた。
「だぁぁあ……もう、この話は終わりです!!
とにかくラオさんも一緒に行かないと困ります」
「他に誰か来てくれませんか?」
心結はまた大海原にむかって叫んだ。
『大亀のオジジでもよびましょうか』
リヴァイアサンがそう言ってくれたんだけど大丈夫かな?
名前からして竜宮城に連れていかれそうな
雰囲気がするネーミングなんだけど……。
心結はちょっぴり心配になった。
すると背後から懐かしい声が聞こえてきた。
「かわいこちゃんじゃない!元気にしてた?
あら、今日はイケメン狼くんじゃなくて……
ちょっと危険な匂いがするイケメンコウモリくんがお供なの?
もう、見かけによらず……わ・る・い・こ・ね!」
今日もメイクばっちりのピンクイルカが
海の中から華麗なジャンプをきめて登場した。
「マーくん!! 来てくれたんですか」
心結は嬉しそうにリヴァイアサンの背中から手をふった。
「お知合いですか?」
なかなかの強烈キャラの登場で若干引き気味のラオ。
「あー、うん。マーくんです
とても希少な方でめったに人前に現れない方ですよ」
(とてもじゃないけど、マール王国の海洋神“マラハン”様
とは紹介できないよ、うん)
「たまにはこういう悪い子もいいわね。
なんかゾクゾクしちゃう。
特別に私の背中にのせてあげちゃおうかしら」
そう言って、マー君はラオにウィンクを投げた。
「そんな事を……いけません!!
今すぐシーホースをよびますから」
慌てふためくリヴァイアサンだった。
そんな様子をみながらラオは戸惑っていた。
(このオネェイルカ……。
かなりの大物のようですね……)
「リヴァちゃん、私のお楽しみを邪魔しちゃ、ノンノン。
イケメンを定期的に摂取するのが、美を保つ秘訣なのよん。
さ、コウモリくんお乗りなさい」
ラオは本能で危険を感じたのだろう。
逃げ腰で一歩後ずさるが、無情にも心結が満面の笑みで言った。
「乗ってくださいね!」
ここまでマラハン様がお前を所望しているのだから
乗るよな?くらいの勢いでリヴァイアサンにも圧をかけられた。
「わかりました……」
ラオは渋々、マー君にまたがってヒレをつかんだ。
「あん、優しくしてね」
(やりにくいですね……、ヒレへし折ってしまいましょうか
しかしリヴァイアサンすら平伏する御仁。
恩を売っておいても損はない相手)
そう内心思ってひらきなおった。
ラオはイラつきを押えながら、営業笑顔を振りまいて答えた。
「かしこまりました。
私は美しい女性には優しいですよ……フフフ」
そう言って、マー君のヒレを優しく撫でた。
「キャッ……口がうまいのね。
それにどこで覚えたのこんな技……いけないこ!」
「フフフ……まだまだ序の口ですよ」
(ホストクラブか!!ここは……
ラオさんだったらすぐNO.1になりそうでこわい……)
心結は砂を吐きそうな甘いやり取りを……
死んだ魚のような目でみていた。
そこに絶妙なタイミングで、大亀のオジジが登場!!
2メートル以上はあろうか、巨大な亀が海から顔をだしていた。
「ふぇすてばるがあると聞いて、きたんじゃが……
まだ間に合うかのう」
「あらん、オジジまで来てくれたの。
珍しい事もあるものね、おじょうちゃんは人気者ね」
その後も次々と魚群やら巨大イカやら……エイの群れ
リアルサメの軍団とかたくさんの海の仲間達が来てくれた。
もう確認できないくらいの種類が集まってきていた。
海の通信網やばくないか?
5Gより速いのかい?光の速さ以上で伝わるのかい?
心結とラオが目を見開いてぽかんと口をあけて
その光景にあっけにとられていると……
マー君がいきなり男らしいドスのきいた雄たけびをあげた。
「野郎どもいいか!!
今から海を荒らしまわっている奴らにお灸を据えにいくぜ!!
海の漢の礼儀って言うものを教えてやるぜ!
準備はいいか!?」
「おぉぉぉぉぉ!!」
心結達を中心に至る所から気合の入った声が上がった。
「あっ?聞こえねぇな……準備はいいか!?」
「おぉぉぉぉぉおおおおおぉおぉ!!」
海が割れんばかりの声があがった。
後日聞いた話によると、近隣諸国の沿岸で
原因不明の高波が発生したらしい……
絶対この気合入れ合戦のせいだと思う……。
なんかごめんなさい……。
というか、マーくんってこういうキャラだったけ?
こうして心結With海の愉快な仲間達は、シレーヌが待つ
海域へとくり出したのであった。




