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109.計画は綿密に

心結はマール王国の港に来ていた。


“密輸船を一網打尽にして逮捕しちゃうぞ!”の

一芝居に協力してもらう為にシレーヌに会いに来たのだ。


海鮮が美味しいと評判の“うみねこ亭”で待ち合わせだ。


(まさかまたこの港町に来ることになるなんて……

思ってもみなかったなぁ)


心結はラウルと別れた日の事を思い出していた。

ちょっと切なそうな瞳で遠くを見ていたせいだろうか……。


「元カレの事でも思い出していましたか?

妬けますね……」


そう言ってラオは心結の腰を抱いて、自分の方へ顔をむかせた。


モンチラの裏鉄拳と心結の手がラオのその手を容赦なく

ベシッと叩き落とすのは同時だった。


「海に沈めるわよ!」


「僕の奥さんは照れ屋さんですね……」


心結は軽くラオの言葉をスルーした。

いやガッツリ無視した。


「…………モンチラちゃん、何食べようか。

きっと美味しいものたくさんあるよ~楽しみだね」


『キュ!キュキュゥゥ』


ラオをさっさとおいて楽しそうにモンチラと話し始めた。


「つれない人ですね……」


そう苦笑しながらラオは、黙って心結の後をついて歩いた。


秘密の会合なので、この港町に観光にきた夫婦を装って

シレーヌ達と会うことになっているのだ。


どこにスパイや裏切り者が潜んでいるかわからないからね。

だからこんな変態コウモリと夫婦役なんて……

やらないといけなくなったのよ。


心結はチラッとラオの横顔をみた。


黙っていればイケメンの部類なんだろうな、背も高いし……。

やっぱり元が王子様だからか、どことなく気品もあるし……。


するとそんな心結の視線に気が付いたのか

嬉しそうに微笑みながら言った。


「私に惚れましたか?

自分でいうのもなんですが、いい男だと思いますよ。

()()()()()()()()()()()()()()()……

あなたの為に尽くしますよ」


そう言って心結の手をとり、キスをした。


周りからは揶揄いと女子のため息が聞こえる。


(永遠におやすみって何よ……怖すぎて眠れないわ!!)


すると前からゴージャスな美女が歩いてきた。


「騒がしいと思ったらやっぱりあんたたちか。

目立つなと言っておいたのに」


「シレーヌさん!!」


その顔をみた途端、心結は子犬のように駆け寄って思いっきり

シレーヌに抱きついた。


『キュゥゥゥキュキュ』


モンチラも一緒に胸に飛び込んだ。


「おっと……。

元気だったかい、心配していたんだよ」


心結とモンチラを抱きとめて頭を撫でながら嬉しそうに言った。


「あなたも十分目立っていますけどね」


ラオがこっそりと呟いた。


「ご無沙汰しております、心結さん」


見覚えのある魚人がシレーヌの後ろから顔をだした。


「副料理長さん!! お元気でしたか」


心結は抱きつきはしなかったものの、嬉しそうに駆け寄った。


「あいつ、副料理長って呼ばれているのですか?」


ラオは吹き出した。

あまりにもその男の経歴にそぐわない呼び名だったからだ。


(あの男は情け容赦なく敵の船を何隻も沈めた鬼神!!

海の上で出会ったら最後とまで言われた男ですよ。

それが副料理長ですか……)


「心結にとっては副料理長でいいのさ」


シレーヌは慈しむように心結達を眺めていた。


「立ち話もなんですし、お店に向かいますか」


4人は連れ立ってうみねこ亭に向かった。


静かな裏路地にあり、こぢんまりとした家庭的なお店だった。

シレーヌは勝手知ったる場所なのか……

店員を通さずするっと二階の個室へ心結達を案内した。


大きな窓からは海が一望できた。

これがデートだったら最高のロケーションだろう。


海鳥の鳴き声と共に涼しい潮風が部屋の中に入ってきて気持ちがいい。


すると店主さんだろうか……

ふくふくと太った若いサバトラ柄の猫獣人が入ってきた。


(お腹モフモフ……久しぶりのモフモフ……

あぁぁぁぁ……できる事なら顔を埋めたい。

最近危険なくらいモフモフ不足なのよ……)


心結は顔には一ミリも出さなかったが……

モフモフ誘惑に一所懸命に抗っていた。


(せめて肉球だけでも……肉球だけでも揉ませてください

こんな目の前にあるのに揉めないなんて……ご無体な)


さすが無類のモフモフスキー 変態Lv.12である。

思考がヤバいです!!


心結は荒ぶる自分を押え心の中で密かに泣いた。



「シレーヌさま、並びにお客様。

本日は当店にお越しくださりありがとうございます。

つたない家庭料理ですが、どうぞ最後までお楽しみください」


そう言って、次々に海鮮の料理を運んできた。


「ここの料理は絶品なんだ、話はあとだ一先ず食べよう」


「いただきます!」


心結は目の前の絶品海鮮料理を思う存分心ゆく迄味わった。



最後のシャーベットを食べ終えてから……

4人は早速今後の打ち合わせを始めた。


「コウモリから大体のあらましは聞いている」


「大方仕込みはすんでいると思っていいでしょう。

どうやら昨日からセレスト王国の港が騒がしい様子です。

恐らく明日、明後日にはお宝目指して出航するのではないでしょうか」


「それでは最終確認しましょうか」


副料理長さんは海図を広げて話し始めた。


ようは島に来たところをマール王国側はシレーヌさん達が

セレスト側からは私たちが挟み撃ちをする。

つまりは言い逃れできないように現行犯逮捕するという作戦だ。


まーくんの力を使って、完封なきまでに叩きのめしても

よかったのですが……。

やはり最後は人の裁きで決着をつけたいなって思って。


「潮の流れからして、東に逃亡することは不可能でしょう。

唯一の懸念点を挙げるとしたらここですかね。

不意をつかれたら、島の洞窟に逃げ込まれます」


難しい顔をして副料理長さんは、海図のある場所を指で指した。


「大丈夫ですよ、当日はある伝手を使って完全に封じ込めますから」


「伝手ですか?」


コウモリが不思議そうな顔をして心結をみた。


「はい、上手く行けば……最強の助っ人が来てくれますよ」


心結はそう言うとニヤリと笑った。


シレーヌはなんとなくわかっているようで

意味深な微笑みを浮かべて黙っていた。


「…………」


ラオと副料理長だけが腑に落ちないようだった。


(ランベール王国の海軍に伝手があるのでしょうか……。

あの狼……海軍というよりかどちらかといえば

王国の近衛騎士のようでしたけど……

まぁ、本体に会った事がないのでわかりませんが)


狼の事を思い出し何故かムッとしてしまうラオであった。



「それでは、上手くいくことを願って……」


4人はワイングラスを掲げて誓いを立てて飲み干した。




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