表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/168

105.ドングリ最強説

コウモリ男こと……ラオは珍しく焦っていた。

気がつけば心結もモンチラも鞄も消えていたからだ。


散歩に行ってくると言ったまま忽然と消えた心結。


〈まさかこの騒動に乗じて逃げた!?〉


ラオはギリィィと奥歯を噛んだ。


〈いや……そんなことをするタイプではありませんね〉


ラオがそんな事を密かに思っていると……


「ラオさま、やはりこの一連の事はあの狼獣人の女の

仲間の仕業ではないのですか?

子供達が消えたのもその一環かもしれません」


一人の男がそう言った。


「…………」


ゆらりとラオの背中から殺気が立ち上った。


「黙れ……!!」


ヒッ……


その場にいたコウモリ達全員が恐怖で顔がひきつった。

仲間にこのような態度を取るラオは、初めてだった。


〈まさか俺を裏切るなんて……ありえない!!〉


今までだったら人を信じるなんて項目は

自分の中にはなかった。

信じるものは自分の力と金だけだった。


〈ハッ……らしくありませんね。

どうやら裏切っていない事を信じたい自分がいるようです〉


「お前たちは引き続き地鳴りの調査です。

こんなに何度も起きるなんて不自然すぎますからね。

やつらが何かしている可能性が高い」


「はっ、わかりました」


男たちは一礼をするとラオの部屋から慌てて出て行った。


「さてと、私も迷子の聖女様を迎えにいきますか。

こんなにも私を振り回すなんて……

やはりあなたは悪い女だ……ククク」


ラオは楽しそうに笑うと闇に溶けていった。




その頃心結達は必死に階段を下っていた。

下へ下へと果てしなく螺旋階段は続いている。


秘密通路は真ん中が空洞になっていた。

少しでも足を踏み外せば奈落の底へと転落するだろう。


下を覗くがぽっかりと暗黒が広がるだけで……

底があるのかさえも疑わしいくらいだ。


ギャルドが少しだけ飛行して下の方を調査したが

とても飛行して降りられる高さではないらしい。


しかも真ん中の空洞の途中に飛行避けの魔法陣が

至る所にはられていることが判明した。


(作った人の性格がでるよね、こういうのって!

鳥獣人対策が万全かよ!)


心結は遠い目になった。



「はぁはぁ……一体これは何処まで続くの」


心結はフェリィをおんぶしながら恨めしそうに

まだ続く階段を睨んだ。

もう降り始めて15分以上は経っているだろう……。


「あの塔はかなり高い位置に建っていたからな。

もし麓までつながっていたら……

とんでもない事にはなるな」


アガタをお姫様抱っこしながら階段を下りているのに

息の一つもあがっていないギャルドがいた。


(さすが軍人……汗の一つもかいていないなんて。

しかもお姫様抱っこが様になるな。

イリス様とはまた違ったカッコイイお姉さまだ)


心結は少しその姿にキュンとした。


「ん?私の顔に何かついているか?」


「いいえ……ギャルド様が凛々しくてカッコイイなと

見とれていました」


「なっ……」


その言葉に赤面して少し挙動不審になるギャルドであった。


「フフフ……ギャルドは昔からかっこいいのよ」


アガタは心結の言葉に同意するようにいたずらっぽく笑って言った。


「アガタ様まで、やめてください」


「フェリィ……ギャルド様でもいいな、結婚するの」


フェリィちゃんが止めをさした。


「…………」


顔から湯気が出るのではないかくらいに真っ赤になるギャルド。


「フェリィ……!?」


裏返った声で叫ぶキールくん。


(フェリィちゃんはなかなか恋多き乙女なのね)


「フフフ……」


ピリッとした空気が和んだ時だった。


上からカランと音がして石の欠片が落ちてきた。

そして羽ばたく音と足音が聞こえてきた。


「まずい……奴らが追ってきたか」


心結達は更にスピードをあげて階段をおりた。


しかしどんどん敵との距離は縮まっているように感じる。

そしてついに姿を捉えられたようだ。


「いたぞ!」


「アガタ様以外はどうなってもかまわん」


「捕らえろ!!」



「…………言ってくれるじゃないの」


心結はその一言で更に闘争心に火が付いた。


何かが上から猛スピードで降りてくる。

しかし心結達を捕らえる前に、魔法陣に引っかかり

黒焦げになって目の前を落ちていった。


「ヒィィ……」


キールくんたちに見せないようにさっと目隠しをする。


(魔法陣……怖っ!! エグすぎる)


「飛ぶな、魔法陣が発動するぞ!」


「矢を放て!!」


「…………」



「本気かよ!!」


心結達めがけて上から矢が降ってくる。


(いやぁぁぁ……なにこれ!

まるでの矢の雨が降ってくるようだ!!

当たったら死ぬ!!)


しかしその矢が心結達に到達する前にすべて

モンチラちゃんとギャルドさんの一太刀ですべてはじきかえした。


『キュキュキュ!!』


「さすがモンチラだな。動きがすばらしい」


「キュ!!」


モンチラちゃんとギャルドさんが意気投合している!!

戦士同志にしか通じ合えない何かがあるのかしら。


しかしその間にもどんどん差が埋まっていく。

ついに心結達の目にも鳥獣人達の姿がみえた。


「ふぁ……結構な数が来ていますね」


それでも心結達は必死に階段をおりる。


「あれは御大直属の暗殺部隊だ……。

全部で20人くらいはいる」


「えぇ……ヤバイじゃないですか」


先遣隊だろうか、心結達の姿をみてギョッとする。


「隊長……敵と思われる目標を確認しました!

狼獣人の女とコウモリの子供二人です……」


「なんだと!それは間違いないか」


「はい……。それとギャルド大佐とアガタ様です」


「あの裏切り者の女か……」


隊長のイヌワシ獣人は忌々しそうに吐き捨てる。


(ギャルドさん大佐だったのか……)


「アガタ様を開放しろ、そうしたら命だけは助けてやる」


鷹の獣人がそう叫んだ。


心結達はガン無視して階段を降りる。


「…………」


頭にきたのだろう、矢を放とうとするが隊長にとめられる。


「武器は使うな!アガタ様に当たったらどうする!」


その時だった……


「あっ……」


焦ったのだろうキールが転んだ。


「キールくん!!」


心結が抱き起こそうとした時だった……。

後からきた鷹の獣人に手を掴まれそうになった時に

それはいきなり現れた。


鷹獣人やその後に続くカラス獣人達が次々と転んだのである。

しかも立ち上がろうとする度に何故か転び……

最後には階段を踏み外し足を滑らせた。

そして中央の空間へそのまま落ちて行った。


飛んでいる鳥獣人達も何か見えない者に激しく

攻撃を受けているようで、落下していっている。


黒焦げコースまっしぐら決定である。


「えっ?」


これには心結達も上の方から見ていた隊長たちも

一瞬何が起こったかわからなかった。


しかしそのおかげで、また心結達と鳥獣人達の差が開いた。


心結の背中でフェリィちゃんが嬉しそうに呟いた。


「エリゼちゃんが助けてくれた」


「エリゼちゃんが?」

心結は走りながら問うた。


「だってほら……」


フェリィちゃんが手をのばして一所懸命みせてくれたのは

()()()()”だった。


「鳥さんたちが転んだのは、これをたくさん踏んだからだよ。

エリゼちゃんの大好きな“ドドドングリ”」


(ドの数が多すぎやしませんか?

微妙に言いにくい……ドドドングリ)


チラッと後ろを振り返ると……

大量のどんぐりが散らばっているのが見える。


(確かに私たちが通ったときはそんなものはなかった。

どんぐりで足を滑らすって。

そんな最後はちょっと嫌だな……。

バナナの皮ならまだしも……異世界のどんぐり最強かよ!)


以外にも、木の実は武器になるようです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ