104.秘密の通路ってワクワクするよね
この塔はラオさんのお母さんを軟禁するための塔だった。
ないわー本当にないわー。
イヌワシ獣人のハゲオヤジ……どんだけシスコンなんだよ。
心結は激しく憤っていた。
「この塔には許可したものしか入れない。
一旦私が追い返そう……。
だからお前たちはここで静かにしてくれ」
ギャルドさんは、扉を施錠すると下に降りて行った。
アガタも随分落ち着いたのだろう……
ベッドの端にちょこんと座っていた。
その視線はやはりキール達に注がれていた。
「ラオと離れ離れになったのも……
キールくんくらいの年でした。
まさか生きているとは思わなかったの。
取り乱してしまってごめんなさいね」
心結達は大丈夫だというように頷いた。
「アガタ様、ここを出ることはできないのですか?」
アガタは寂しそうに首を横にふった。
「この鳥かごには強力な結界がはってあります。
かけた術者でもとけないそうです」
(いやーひくわ。本気すぎてひくわー。
イヌワシ獣人のハゲオヤジ本気でなんなの……)
「特にコウモリ獣人と鳥獣人は触れられないように
なっています……」
(助けにきても奪われないようにと……
鳥獣人が裏切って逃がさないようにという事か……
用意周到かっ!このやろう……)
「それならば他の種族なら開けられる可能性は
ありますよね!」
心結が鳥かごの一部の柱に触れようとした時だった
ガッと後ろから手を掴まれた。
「やめておけ……黒焦げになるぞ。
昔同じようにこの柱にふれて、意識不明の重体になった
タヌキ獣人がいたからな」
そういってギャルドは心結の手を下ろさせた。
「そうですか……」
残念そうに籠の中のアガタを見つめた。
「ギャルドさん、押しかけてきた人達は……
納得して帰られたのですか?」
首を横にふりながら、肩をすくめてから
疲れたような深い息を吐きながら言った。
「なんとか言い包めて帰したが……
匿っていることはうすうす気がついている様だな。
御大がでてくる事にならないといいのだが」
その言葉をきくとアガタは震えてビクッとなった。
「御大とは……?」
「アガタ様の兄上様です」
(ハゲオヤジかぁぁぁぁぁ!!)
いや、だから禿げていないですから……
悪口は駄目ですよ……
というラオさんの呆れた声が聞こえた気がした。
そんな折……フェリィちゃんがソワソワし始めた。
なにやら鳥かごの横にある奥の壁をじっと見つめている。
「フェリィ……どうかしたのか?」
キールくんが訪ねるとフェリィちゃんは一回口を開きかけたが
またすぐに口を噤んだ。
「…………?」
心結達も不思議そうにフェリィの顔を覗き込んだ。
大人たちすべての視線が自分に注がれたので……
恥ずかしさと驚きがきたのだろう、キールの後ろに隠れてしまった。
『キュッ……キュキュ……』
モンチラがその場所にいって鳴いた。
「そうなの!? それは本当なの!?」
『キュキュ!』
モンチラは胸を張ってドヤ顔をした。
「おまえ……モンチラの言葉がわかるのか」
ギャルドは感心したように心結をみた。
「はい、家族ですから!」
心結は誇らしげに笑った。
心結はキールの後ろに隠れているフェリィに話かけた。
「フェリィちゃんもしかして、この後ろに何かあるのかな?」
フェリィはその言葉に反応して、そっとキールの後ろから顔をだした。
そしてキールの顔をみた。
キールはそれに答えるように優しく頷いた。
「階段がみえる……」
そうポツリと呟いた。
「…………隠し通路か!!」
驚いたようにギャルドはその一画を見つめた。
「モンチラちゃんも微かに風の音が聞こえると言っています」
ギャルドは腰に差している刀を取り出して
其の柄の部分で壁を壊し始めた。
長い年月が経って壁が老朽化していたのであろう
いともあっさりと壁が崩れた。
大人が一人やっと通れるぐらいの穴があき……
その中には下へと続くであろう果てしない階段が見えた。
発見された事がスイッチだったのだろうか。
壁に等間隔に設置されている小さなランタンのような
灯りが一斉に灯った。
「本当にあるとは……」
ギャルドは夢でもみているのではないかと思い
何度も目を瞬かせた。
「よかった……。本当にあったのですね。
さあお逃げなさい、兄上に見つかる前に此処を出るのです」
アガタは心結達にむかって言った。
ギャルドも同意するように頷いている。
心結はその言葉に迷った。
アガタ様をこのままにして帰ることは忍びない。
もしこのままで帰ったら、今後はもっと厳重な場所に
移動させられてしまうのではないか。
今が助け出す最初で最後のチャンスだ。
でも現状この鳥かごを壊すことはできない……。
そう考えるとやはりこのまま二人と秘密通路を
つかって帰るしか選択肢はないのか。
「時間がありません。さぁ……早く」
そう言うとアガタは激しく咳き込んだ。
「アガタ様!?」
心結達はアガタの元へと駆け寄った。
アガタが自分の手で押えた口元から血が滲んでいた……。
(まさか……病気なの?
結核みたいな症状だな……)
「アガタ様……大丈夫ですか……」
キールとフェリィちゃんはその姿に泣きそうだ。
「ギャルドさん、アガタ様は……」
ギャルドは悲痛な面持ちでそっと心結に告げた。
「アガタ様は肺のご病気だ……。
かなり進行しており、おそらくもうそんなにお時間はない」
「えっ……。
治療はどうなっているのですか!薬は……」
「薬はあります。
が、とても珍しい薬草から作られるそうです。
かなり高額の為に我が国では用意することができません……」
「そんな……」
「だから危険を冒してまで私たちを助けたのですね。
もう一度コウモリ獣人とアガタ様を会わせる為に」
「そうだ……」
「あなたたちに会えて……。
ラオが生きていることもわかった。
もう思い残すことはないわ……。ありがとう
さぁ……行きなさい」
アガタはこのまま消えてしまうのではないかというような
儚くて優しい微笑みを心結達に向けた。
しかしその姿は凛としていた。
外がだんだん騒がしくなってくるのが聞こえてくる。
恐らく王宮からこちらに鳥獣人達がむかってきているのだろう。
心結は決断をした。
キール達に“帰ろう”と言おうとした時だった。
「嫌です……。アガタ様も一緒じゃなければ嫌です!!」
キールくんが叫んだ。
「えっ!?」
いつもあのクールなキールくんらしからぬ発言だった。
「アガタ様はフェリィ達と一緒にラオ様の元に帰るの!!」
フェリィちゃんまでもが叫びだした。
大人三人は顔を見合わせた。
まさかこんな小さな反乱がここで起きるなんて予想外だ。
二人は真剣だった。
小さな体を奮い立たせ、こんな状況でも諦めないと言っているのだ。
「そうだよね!なんでこんな弱気になっていたんだろう」
心結は自分の頬を両手でパンと叩いて気合を入れた。
(私はこの世界の最高上位種!!
黒焦げ!?上等じゃない……。
やってやれないことはないはずですよね!女神様!!)
「まずい……奴らが吊り橋の入り口までたどり着いたようだ」
心結は無言で鳥かごの前に進み出た。
そして徐に柱をガッと掴んだ。
その瞬間信じられないほどの閃光が部屋中にほとばしった。
(痛ぁぁぁぁ!手が尋常じゃないくらい痺れている!!)
「ばか!お前なんてことを!!」
ギャルドは心結を止めようとしたが……
「来ないで!大丈夫だから!必ずこんな柱……
ぶち壊してやるわっ!」
心結はそう叫ぶと、柱と柱の間を力ずくで広げた。
ファイト~!!
気分は某栄養ドリンクのCMくらいの気分だ。
「ふんぬぅぅぅぅ!!」
すると信じられない事に!
柱と柱の間に徐々に空間が広がり始めた。
ついには人一人が通れるくらいの空間ができた。
「ギャルドさん!! 早くアガタ様を!!」
心結が空間を広げているその瞬間にアガタを鳥かごの中から
外に連れ出すことができた。
「いっ……っ」
心結が力尽きて手を離すと、また空間は元に戻っていった。
「よし!大成功だね」
心結は親指をたてて笑った。
「お前はいったい何者なんだ!?
力技にも程があるだろうが……馬鹿なのかっ」
呆れながらもギャルドは泣いていた。
「恩にきる……」
感動も束の間……
階段を上ってくる足音が聞こえてきていた。
「それより早く逃げましょう」
心結達は秘密の通路へと駆け込んだ。
一応すぐ見つからないようにギャルドさんのタンスを
穴の前に置いて塞いでおいた。




