103.思いがけない出会い
ギャルドこと、イカツイ鷲の獣人さんに助けられました。
おそらくこの塔を管理している?
中にある何かを守っている女戦士なのだろう。
身分は高そうだ、様づけされて呼ばれていたな。
まだ味方かどうかわからないけど……
もう賭けてみるしか道はありません。
ギャルドさんは塔の入り口の扉に手をかざした。
すると紋章のような物が浮かび上がり……
カチッと何かが外れる音がした。
ギギギギギギッと音を立てて扉が左右に開いた。
心結達はギャルドの後をついて中に入った。
塔の中は薄暗く、大きな階段が目の前にあった。
螺旋階段になっており上へ上へとのびている。
松明のようなものが、等間隔で階段の壁に配置されており
ほの暗く階段を所々照らしている。
ギャルドさんの後について無言で階段をあがった。
キールくんたちは不安そうに自分を見上げている。
時間にしたら数分だろうか……
やがて踊り場のような場所についた。
その奥にはまた扉があった。
ギャルドさんは先ほどと同じようにその扉に手をかざした。
(異様なほど厳重体制なんだけど……。
一体この扉の先に何があるというの?)
蔦の絡まる大きな扉が開くと
そこは見た目より大きな空間が広がっていた。
しかしそんな事よりもっと驚くべきことがあった。
「えっ……何これ……」
心結はあまりにも異様な光景に言葉を失った。
二人も目をカッと見開いて驚きを隠せないようだ。
心結達の目の前に巨大な鳥かごが出現していた。
鉄でできていて、上が円形ドームのようになっているあれだ。
よくインコなどが入っているおしゃれな鳥籠。
最近はインテリアなどにも使われているらしい。
その鳥籠をそのまま何十倍も大きくしたものが目の前にそびえていた。
ご丁寧に入り口もちゃんとある。
普通ならそこから餌や水などをかえたり、鳥を外に出したりして
使用するところだが……。
そこには何重にも鎖が巻かれ、あかないようにしているみたいだ。
何と言っても驚愕するところは……
その鳥籠の中には家具が置いてあった。
天蓋ベッドやタンス、鏡台などが並んでいる。
衝立のような後ろにはちらりとバスタブも見えた。
更に離れたその奥には小さな小屋も見える。
「これは……」
心結は異様な光景に息を飲んで立ち尽くしていると……。
「ギャルドですか?」
女性のやわらかい声がした。
(まさか……ここは…………)
家具で見えなかった。
中に人がいたなんて……。
心結達の前に現れたのは……
おそらく40代くらいだろう。
上品なイヌワシ獣人の女性だった。
「アガタ様だ」
その女性は心結をみて驚き……
更にキール達をみて更に驚き、そして静かに涙を流した。
「あぁ……何十年振りかしら、その瞳をみるのは」
どこか懐かしむような……そして慈しむような視線で
キールとフェリィにそっと手をのばそうとした。
が、何か鳥かごに魔法でもかかっているのだろう。
バチッと音がして、アガタの手は鳥かごの外に出せなかった。
「どうか傍までいって、話し相手をしてくれないか」
ギャルドはキール達にひざまづいて頭をさげた。
まさかこんな大きな鳥獣人が自分たちに頭までさげて
頼みごとをするなんて思ってもみなかったからだろうか
キール達は目を白黒させて狼狽えていた。
アガタ様の切なそうな瞳がゆれている。
あれはきっと……。
「キールくん、フェリィちゃん、お願い」
心結もギャルドの援護射撃をした。
「…………」
しばらく二人は黙っていたが。
お互いに顔を見合わせ頷くと言った。
「わかりました」
その一言を聞いて、ギャルドはホッとした表情を浮かべた。
「鳥かごには触れないように気をつけてくれ。
防御壁の魔法がかかっている……」
ギャルドさんは忌々しそうな顔で鳥かごを睨んだ。
二人は頷くと、ぎりぎりアガタに近づけるところまで駆けて行った。
「ギャルドさんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「うむ」
「あちら方はどなたでいらっしゃいますか」
「…………」
どう答えていいか思案しているようだった。
「前王妃さまですか?」
ギャルドはわかりやすく固まった。
やがて諦めたのだろう小さなため息をついて呟いた。
「そうだ……」
(やっぱり!! ラオさんのお母様だ!生きていらっしゃった)
心結は楽しそうに何かキール達と話をしているアガタを
感慨深げに見つめた。
「ギャルドさん、何故私たちを助けてくれたのですか?
先程の兵士さんの言う通り、密偵だったらどうするのですか」
「…………ありえんな。
お前のようなトロそうな狼獣人と年端もいかないコウモリ達。
まぁ……お前のティムしたモンチラだけは驚いたけどな。
私だったら選ばない人選だな」
そういってギャルドさんは目を細めてニヤリと笑った。
「さいですか……。
因みにモンチラちゃんは私の家族のようなものですからね
決して従えた獣体とかじゃないですから」
心結はちょっとムッとした。
『キュ!キュキュ!』
モンチラも心結の肩で抗議するように鳴いた。
(それにしてもトロいってひどくない!?)
「フ……。そうか……。
それはすまなかった」
角度90度でお辞儀をされ真摯に謝られた。
(なんだかな……ギャルドさんある意味真面目なんだよな。
縦社会が厳しい軍人さんだからかな)
心結は困ったように曖昧に微笑んだ。
「アガタ様はどうしてこのような所に?
これじゃぁまるで……」
心結はその先を言葉にするのを躊躇った。
「…………」
ギャルドさんの瞳に悲しみの色が浮かんだ。
「すまない、詳しいことは言えない」
(ですよね……。
まぁどうせあのイヌワシのハゲオヤジのせいでしょう)
心結はギャルドの気持ちを察して知らないふりをした。
「ギャルドさん、図々しさついでにお願いなのですが。
私たちをこの城から逃がしてはくれませんか。
せめてあの二人だけでもお願いできませんか?」
「…………」
「ここに迷い込んだのは本当に偶然なんです。
あの子達には帰りを待っている家族がいるんです」
心結は必死にお願いした。
「正直難しいな……。
ここはあの吊り橋が唯一の出口だ。
あそこを通る以外ルートはない」
「そんな……」
「カラスは一旦引き下がったに過ぎない。
今度はもっと身分の上の者がここを改めにくるだろう。
それに無事に渡り切ったとしても……
あちらの入り口ですぐにつかまるだろう。
最悪のケースなら橋の途中で捕まり……
そのまま下に落とされて終わりだ」
その言葉に心結とキール達は陥落して肩を落とした。
「ギャルド……そんなに脅したらいけませんよ」
アガタは窘める様にギャルドに言った。
「しかしアガタ様……」
「私がそんな事をさせないわ。
もう二度とコウモリ達を傷つける事は許さない」
その時だったフェリィがポツリと言った。
「アガタ様って……ラオ様に似ているね」
「ラオ…………!!」
その言葉にアガタは激しく動揺し、身体を震わせた。
そしてその場に崩れ落ち、顔を伏せて泣き出した。
「どうしたのですか!!」
キールくんもあまりのアガタの狼狽ぶりに……
心配してオロオロとアガタとギャルドの顔を交互にみた。
「生きていらっしゃったのですか」
ギャルドも放心したように呟いた。
「はい、ラオ様は生きていらっしゃいますよ」
「ラオ……、ラオ……ッ」
何度もラオの名前を呼びながらアガタは泣いた。
「ラオ様はとっても強くてカッコイイの。
いつも遠い国のお話をいっぱいしてくれて……
珍しい美味しいお菓子をいっぱいお土産に買ってきてくれるの。
フェリィ大きくなったら、ラオ様みたいな人と……
結婚したいの!」
瞳を輝かせて、夢見る乙女のように胸の前で手を組んで言った。
「フェリィ!?」
いきなり爆弾発言をかますフェリィに
今度はキールの方が信じられないほど動揺し始めた。
「この前までは……お兄ちゃんと結婚するって
言っていたのに……」
どうやら焼きもちを焼いている様だ。
可愛いな……本当に仲のいい兄弟だな……。
心結は心が温かくなった。
その発言に心結とギャルド……
泣いていたアガタまで思わず笑ってしまった程だ。
『キュキュ!!』
「し……静かに」
モンチラとギャルドが突然同時に叫んだ。
「どうやら客人が塔の入り口にお越しだ」
どうやら簡単には事は運びそうにありません……。




