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102.大脱走

心結達は素早く廊下を移動していた。

勿論偵察隊として先頭を歩くのはモンチラちゃんだ。


本当に可愛いモフモフなうえに頼りになる子だわ。


『キュ……、キュー』


この先は分かれ道になっているらしい。

右に進むか、左に進むか悩ましいなぁ。

この選択を間違えると、どエライ事になるしなぁ……。


心結が悩んでいると、フェリィちゃんが迷わず言った。


「おねえさん、こっち」


「えっ?」


心結の返事も聞かず、心結の手を強引にひいてずんずんと

右に曲がって歩いていこうとする。


「フェリィちゃん……ちょっと……」


心結は焦ったが、キールは微笑んで言った。


「大丈夫ですよ。フェリィの感は外れないのです。

俺たちはフェリィの感だけで、あの神殿の部屋に辿りつきました」


「それはすごい」


(もしかしてフェリィちゃんの特殊スキルなのかな?)


「でしょ。フェリィは凄いんだよ」


鼻高々にドヤ顔をきめるフェリィ。

三人はそのまま右の道を進んだ。


どうやら三人が落ちた貯蔵庫らしき部屋は王宮の隅にあったらしく

進めば進むほど、人の気配や明かりが増えてくる。


(本当にみごとに鳥の獣人しかいないな……王宮)


二人もそれを感じているらしく、口を真一文字に結んで

耐えているようだった。


やがて廊下の先に光が見えて、ひんやりとした空気を感じた。

ついに王宮のはずれの中庭のような所に出ることができた。


「はぁ……やっと外に出られたね」


三人は一息をついて、大きな木の陰で腰をおろした。


「二人とも疲れてない?足は痛くない?」


「大丈夫です」


二人は少し緊張から解放されたのか、ニコリと笑顔を見せてくれた。


しかし改めてみると、王宮は断崖絶壁に建てられている城だ。

中庭に出られたとしても、状況はほとんど変わらない。


フェリィちゃん曰く、このまま中庭を通って

大きな廊下を真っすぐ行くと出口に近づくらしい……。


でもそうするとどうしても人気の多い所を何か所も

通らないといけなくなる。


とてもじゃないが、見つからないように抜けるのは

至難の技だ……現実的な選択肢ではない。


(ラオさんなら余裕なんだろうな……)


心結はそっと中庭の石造りの塀から眼下を見下ろした。

くらっとくるような高さだった。


(うん、無理だな。飛べないな。

さすがのモンチラちゃんでもこの高さは危険だろう。

ましてやこの二人も無理だろうな)


心結はキール達の背中に生えている小さな翼をみながら

脱出方法を考えていた。


そのせいなのか、背後からくる人影に気がつくのが一瞬遅れた。


「誰だ!そこにいるのは」


恐らく見張りの鳥獣人だろう。

三人の元へと飛んで来ようとしている!!


「逃げるよ!」


心結は急いでフェリィを右わきに抱えて、左手でキールの手を掴むと

一目散に駆け出した。


(どうしよう……捕まったら最後だよ)


心結は一心不乱にただ前だけをみて走った。


やがて中庭を抜け……長い吊り橋のような所を通り

気がつけば塔のような建物の前に来ていた。


「行き止まりか……」


どうやらここは先ほど渡ってきた吊り橋のみで繋がっている

離れ小島のような場所だった。


前しか見ないで走っていたから渡れたけれど……

今改めてみると足が竦むほどの高さの吊り橋だった。


(私……高所恐怖症なんだけどな……。

いざって時の人間の開き直り方ってすごいなぁ……)


「ごめん二人とも大丈夫?モンチラちゃんはいる?」


「大丈夫です……」

「はい……」

『キュッ』


点呼確認は大事!よしっ!みんな揃っているな。


三人はそっと大きな生垣の隅から吊り橋を覗いてみた。

すると何十羽?何十人?というのだろうか……。


ランタンのような物をもった鳥獣人たちがそこかしこに

飛んでいるのが見えた。


「侵入者を探せ!」


「まだ遠くには行っていないはずだー」


「…………」


三人は何も言わずそっと顔をひっこめた。


(あわわわわわ……ヤバイじゃん。

蜂の巣を突いた様な騒ぎになっているよ……)


「はぁ……どうしよう。完全に袋の鼠だわ……」


心結は三角座りをしながら自分の膝に顔を埋めて項垂れた。


グイグイ……

何かがスカートをひっぱる感触がした。


「ん?」


顔をあげてフェリィちゃんをみると……

顔面蒼白になって何かを目で訴えてきている。


「どうしたの?」


前を見ろ!前をと目で合図をしてきた。

心結がその通りに前を向くと……


「…………!!」


めちゃくちゃイカツイ鷲の獣人さんが立っていらっしゃったよ。

しかも女性の方だ!

言うなればアマゾネス的な……。

眼光鋭い目でただ黙って私たちをみおろしていたよ……。


(終わった……)


心結は二人を庇うように引きよせてぎゅっと抱きしめて

負けじと下から睨み返した。


するとその鷲獣人は唇に人差し指をあてて

静かにしていろとジェスチャーで伝えてきた。


鷲獣人の女性は吊り橋の入り口まで歩いて行くと

そこにカラスの獣人が空から降りてきた。


「何事だ!騒がしい」


「これはギャルド様……」


カラス獣人は右手を胸に当てて、ギャルドに頭をさげた。


「実は侵入者が確認されました。

おそらくコウモリのやつらの密偵かと……」


「密偵だと?」


ギャルドは片眉をあげて訝しんだ。


「は、数はわかりませんが……

あの瞳は間違いなくコウモリだったと……」


「それで?」


「その者が言うには、こちらの方へと逃げていったと

申しておりまして」


若いカラスの獣人はギャルドの圧に、たじたじになりながら

なんとか状況を説明しているようだった。


「見ていないが……」


「しかし……この先はこちらしか道がなく」


それでもなおカラス獣人は食い下がる。


「ここが何処だかわかっていて言っているのか?」


更にグンとギャルドの圧が上がった。


「勿論存じております」


「…………」


ギャルドの鋭い視線に耐えられなくなったのだろう。


「失礼いたしました。他を探してみます」


「うむ。私の方でも気にしておこう」


「は、ありがとうございます」


若いカラス獣人はまた城の方へと飛び去った。

それを見送った後、ギャルドは心結達を手招きした。


「…………」


心結はどう受け止めていいか悩んでいた。

果たして本当に着いて行っていいのだろうか……。


危険回避スキルは反応していない。


「死にたくなければ、ついてこい」


そう言ってギャルドは先に歩き出した。


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