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99.過去との対話

ラウルは人知れず執務室でひっそりと泣いた後……

自分の部屋に戻ってベッドの上に寝転び目を閉じた。


「お前がこんなに泣くのは20年前のあの日以来だな」


そう言ったジェラールの言葉を思い出し……

自分もその時の出来事を思い出していた。



訳もわからず人間界に転移してしまった事。

そこで猫の兄貴に会った事……。


死ぬほど旨いメロメロパンを食べさせてもらった事。

そして生涯忘れられない事件が起こった事……。



それはメロメロパンを食べさせて貰った次の日の事だった。

その日は朝から雨が降っていた。


相変わらず俺はあばら家のソファーの上にいた。

何か唸り声がする……。

眠気眼でその声の主を探すと、近くで寝ていた兄貴だった。


『兄貴……?』


どうやら凄くうなされている様だ。


『うぅ…………くっ……』


『兄貴?大丈夫ですか……』


ラウルは心配そうに兄貴の元へと駆け寄った。


『……シルバーか……。大丈夫だ、わりぃ……。

雨の日はどうしても傷が疼くんだ』


そう言って兄貴は鍵しっぽを舐めた。


『俺のこの尻尾は子猫の時に人間にやられたんだ』


兄貴はあっけらかんと言った。

が、ラウルは目を見開いて固まった。


『ここにいるやつらはみんな似た境遇だ。

あそこに見える白い猫がいるだろう。

あの子は……元は家猫だ』


〈家猫……。

よくはわからないが人型に大事にされていた猫だろう〉


悲しそうな瞳をした美しい白い毛並みの猫だった。


『ある日突然飼い主に捨てられたんだ。

飽きたんだとさ……。

人間にはブームというやつがあるらしい。

新たに人気がある猫を飼いたいが為に捨てられた!』


痛ましそうにその猫を兄貴はみた。


〈飽きたからすてる?家族同然の者をか?

言っている意味がわからないのだが……〉


『子犬の時は可愛いが……

大きくなったら可愛くないからという理由で

放棄された子もいる。

人間だって同じように成長するのにな……』


ラウルは自分の範疇を越える出来事にショックを受けていた。


他にもよく見ると、足を引きずっている犬や猫。

ガリガリにやせた子猫。

みんな全てを諦め死んだような瞳をしていた……。


〈これがすべて人型のエゴで生まれた事なのか!?〉


ラウルは悲しみと怒りで更に人型への不信が募っていった。

そんな気持ちが顔に出ていたんだろう。


『まぁ……そんな人間ばかりじゃねぇけどな。

公園の向かいに住んでいるばぁさんや……

そうだこの前のメロメロパンの女とか……。

動物好きで大事にしてくれる人間もたくさんいるからな』


俺は兄貴が何か言っていたが……

もうその言葉が入ってはこなかった……。


〈人型……なんて浅ましい種族だろう……〉


ラウルは心底軽蔑していた。


「う………」


傷が痛むのだろう、兄貴は丸くなって震えていた。

顔にも疲労の色が浮かんでいた。


今日は俺が食べ物を調達してこなければいけない。

ラウルはそう思った。


『兄貴……、俺出かけてきます』


『お前一人で大丈夫か?』


青い顔をしながら心配そうに見つめながらいった。


『大丈夫です』


『くれぐれも気をつけろよ……』


とにかく何かをして兄貴の恩に報いたかった。

それなにあんなことになるなんて……。

その時の俺は知るよしもなかった。



昨日の公園に来てみた。

やはり雨だからだろうか、人型はまばらにしかいない。


さてどうしようか……。

雨に濡れながら俺は公園内をさ迷っていた。


しかし兄貴のように人型から食料を調達できるはずもなく

半分途方にくれていた。


仕方がなく屋根のついた東屋の下で雨宿りをしていた。

その時だった、若い男女の人型がやってきた。


「もう……いきなり雨が降ってくるんだもん」


「でももうすぐ止みそうだけどな」


俺は見つかりたくなくて、そっとそこから出ようと

していたが運悪く女の方に見つかってしまった。


「あっ、ワンコがいる。可愛い~まだ子犬かな」


やばいと思った瞬間男の手に捕らえられていた。


「薄汚れた犬だな……」


〈離せ!! 〉


ジタバタと暴れたが力が強くて抜け出せなかった。


「でも顔は可愛いよ」


「ん?こいつ野良の癖にペンダントなんかしてやがる」


「本当だ!奇麗な石が二つもついたペンダントしてる。

見たことない石だね……凄く綺麗……」


女の目がキラキラと俺のペンダントに注がれていた。


「欲しいのか?」


そう言って男はラウルの鎖に手をかけた。


〈なんだと!俺のこれを奪うつもりか!〉


流石のラウルも怒り男の手に嚙みつこうとしたが

男も躍起になって抑え込もうとしていた。


「暴れんな……」


〈くっそ……魔力さえつかえれば……〉


その時だった、物陰から何かが飛び出してきて

男の手を思いっきり引っ掻いた。


「痛っ! ちくしょう!一体なんだ?」


それでも男はまだしっかりとラウルを持っていた。


『シルバーを離せ!!』


兄貴が全身の毛を逆立てて男を激しく威嚇していた。


「なんだよ、この猫」


『兄貴!!』


「もういいよ、離してあげなよ」


女の方は男を窘めるが、男の気が収まらないようだ。


「はっ、たかが子犬と若いオス猫じゃねぇか。

()()()()()()()()()()1()0()0()()()()()()()


その言葉にラウルと兄貴がブチ切れた!!

思いっきり二匹で男の手に噛みついた。


「………………ってぇ!!」


流石の男も手を離さずにはいられなく……

ラウルを離したのだが……


受け身が間に合わず……

その拍子にラウルは背中から落ちていった。


〈まずい!!〉

と思ったがどうすることもできなかった。


覚悟を決めて目を瞑ったが、痛みは襲ってこなかった。

その代わり暖かい何かが飛び込んできた。


〈間に合ったか……〉


兄貴が俺のクッション代わりになっていた。

二人して藪の中に激しく転げ落ちた。


『兄貴!! 兄貴!!』


俺の方が体も体重も二倍近くあるだろう。

それなのに兄貴、俺の代わりに衝撃をうけて……。

無事な訳がなかった。


案の定兄貴はそこにぐったりと横たわり……

動けなくなっていた。

額からは血が流れていた……。


『無事だったか……シルバー。

遅くなって……ごめんな。怖かっただろう』


兄貴は息も絶え絶えそう呟いた。


『兄貴……しっかりしてください。

なんでなんですか。

なんでこんな出会ったばっかりの俺にここまで

してくれるんですか』


ラウルは泣きながら兄貴の身体にすがった。


『お前は俺の弟にどことなく似ているんだ』


兄貴はそう言って優しい目で俺を見つめた。


『あの時は俺もまだ小さくて……

力がなくて何もしてあげられなくてな……。

その結果……あいつは遠い所にいってしまった……』


兄貴は切なそうに空を見上げた。


『だから今度……弟ができたら。

必ず守り抜くと決めたんだ……』


そう言って兄貴は嬉しそうに微笑むと……

やがて目を閉じていった。


『兄貴? 兄貴……やだよ……目をあけてくれ』


ラウルは助けを呼びに行くためにあばら家へと

向かおうとしていた。


しかし先ほどの衝撃と長時間冷たい雨に打たれていたからだろうか

思うように足が動かなくなっていた。


ついに公園の入り口途中で力尽きていた。


〈あぁ……寒い凍えそうだ……。

それに身体も鉛のように重いし、至る所が痛くて動けない……。

俺はこのままここで死ぬのか……。母様……会いたい……。

もはやこれまでか……目まで霞んできた……〉


その時だった、何かが俺にふれた。

最後の力を振り絞って抵抗を試みるが、あっさりと捕まった。


〈兄貴ごめん俺…………〉


温かく優しい香りにつつまれながら、俺の意識が遠退いた。




次に目を覚ました時には、俺はベッドの上だった。


「クッ…………」


急に体を起こした反動だろうか

信じられないほどの痛みが全身に走った……。


「気がついたか……?」


その声をきいたとたん……

ラウルは涙が自然と溢れた……。

次から次へと溢れて止められなかった。


「よく無事に帰ってきたな……」


そう言って、その男はラウルをぎゅっと優しく抱きしめた。


「…………っ……ジェラール……叔父ちゃま……」


その後ラウルはジェラールに縋って大声で泣いた。


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