10.歓迎はされていない模様
馬車は大きな黒い鉄製の飾り門を通り……
プラタナスのような並木道をぬけた。
どうやらこの先に、公爵様のお屋敷はあるようだ。
お屋敷というか、ちょっとしたお城だよね……これ。
水に囲まれているから、湖に浮いているように見える!
バロック建築?ルネッサンス建築?
そういう難しい事はわからない……。
けれど、塔の装飾とか緻密なステンドグラスの窓とか
職人さんの心意気が随所に感じられるのはわかる。
あっ、因みに門番は、獣面犬の獣人さん達だったよ!
ゴールデンレトリバーとハスキー犬かな。
目があったので、手を振ってみた。
最初は驚いた顔をして、固まっていたけどね!
ちゃんと手を振り返してくれたよ。
尻尾もちぎれんばかり振ってくれたのも可愛かった。
ほっこりした気分になったわ。
「ミュー様、着きましたよ。私が先に降りますね」
ディーヤが降りたのを見計らって
心結も馬車のステップに足をかけようとした時だった。
「お待ちしておりました。異世界人様」
色気のあるバリトンボイスの持ち主が現れた。
そして心結の手を取りそっと馬車から降ろしてくれた。
「ありがとうございます!?」
(ヒヤァァァァァァ!
眼が眩むほどのイケメン獣人降臨した!!)
心結の目の前に突如現れたのは、銀髪碧眼の美青年だった。
片眼にはモノクルをつけている!
眼鏡男子いいわ!!
頭には銀色に輝く獣耳と後には毛並みのいいモフモフ尻尾が
揺れているのが見て取れる。
恐らく狼の獣人さんだと思う。
(銀髪綺麗……。
背中まである髪を金色の飾り紐で、一つに束ねているも素敵。
お日様の光に当たると、少し黄金に輝くのもいいっ!)
恐ろしいほど姿勢がよく……
背も高い190センチはある美丈夫。
黒の燕尾服をピシッと着こなし、上品に佇んでいた。
(生きててよかった。
好みをぎゅっと詰め込んだ夢の獣人いたぁ!)
しかしその目は一切笑っていなかった。
冷徹とも思える厳しい視線を心結に向けていた。
(あれ?全く歓迎されてない模様……。
お待ちしておりました感ゼロなんですけど)
慇懃無礼ってこういう事をいうのだな……
と、割と冷静に考えていた。
「ラウル様、お出迎えありがとうございます」
「ディーヤ、無事に帰ってきてなりよりです」
かなり優しい笑顔を向けて、労いの言葉をかけながら
ディーヤの籠を受け取っていた。
(凍結していた碧の瞳の氷が溶けたみたい……。
あんな顔もできるんじゃない)
「後の事は私に任せて、ゆっくり休んでください」
「ありがとうございます。
ミュー様、こちらは、筆頭執事のラウル様です。
公爵様の右腕と称されるお方ですよ」
「初めまして、私は……」
自己紹介をしようと名前を言いかけたが……
有無も言わせない無言の視線圧で遮られた。
(また絶対零度の瞳にもどった)
「公爵様がお待ちです。こちらへどうぞ」
「……。はい」
「それではミュー様、また後ほど」
ディーヤはペコリとお辞儀をして、裏の方へ下がっていった。
(あぁ……私の癒しの天使がいってしまう)
促されたので、渋々ラウルの後について屋敷へと
足を踏み入れた。