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恵まれなかった物語たちへ  作者: たまマヨ
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第1話 堅物の英雄と恋する魔女

その恋の始まりは幸せな味がした。

クランベリーとも、野いちごともつかぬ酸いも甘いも一緒くたに混ぜ合わせたような味。

冷めてしまった甘ったるい紅茶と一緒に飲み干したその味は三年経った今でも忘れられない。

朝起きて、カーテンを開けたら、舞台の幕も上がる。

青空は燃え上がる恋心を奮い立たせるかのように、または澄み渡る空気を私の肺に送り届けるかのように碧い。

今日も《《彼がやって来るだろうから》》石窯でクッキーを焼く。

きっと山道を馬と共にやってきて疲れているだろうから。

優しく、疲れが取れるようなハーブティーを一緒に入れてやることも吝かではない。

こんなに親切にしているのだから恋のおまじないを一緒にしていたとしても問題は無いだろう。

古風な魔女のかわいい恋のおまじないだ。

きっと喜んでくれるだろう。

こんな寂れた廃村のさらに奥にある小高い丘の小屋になんて来る物好きの騎士は。


「今日は、どのくらいこっちに滞在できるのかしら。宿泊したいとか言ってきたらどうしようかしら…」


何度もシュミレーションしてきた妄想を口にしてみたが、きっと寝泊まりはしないだろうなと思う。

小窓から小烏がやってきて『来た!来た!堅物野郎が来た!』と喋る。

ウキウキと踊る足どりとドキドキと高鳴る胸を冷徹な顔の下に隠して、あくまで仕方なく歓待しているといった表情にしなければならない。

何故なら、恥ずかしいから。

魔女は掌で踊らせることはあっても踊らされることがあってはならない。

だからこそ、恋のおまじないも熱く燃える恋心もあの堅物な騎士には隠し通さなければならない。

誰かが戸口の牡牛の悪魔を象った真鍮製のノッカーをコンコンと叩いた。

頬が緩むのがわかる。

遠路遥々よく来たものだ。

私自ら「よく来たわね」といって手を引いて家に入れるくらいしてやってもいいかもしれない。

更にクッキーも追加で焼いてもいい。

確か、前にご馳走した時はブルーベリー味が好きだったはずだ。

玄関へと走る。

半ば飛行魔術を使っているのではないかと言うほど急ぐ。


「いらっしゃいよく来──」

「──シッ!」


魔女《私》の片腕は愛しい騎士によって切り落とされた。

ギラりと陽光を反射して彼の剣は流麗に輝き、私の薔薇の花弁のような血液は宙を舞う。

私は思いっきり目を見開いて、悟る。


「なんだ、もう、夢のような時間はお終いなのね」






【魔女奇譚Ⅰ恋する魔女のアリアと恋の魔法 第一章 一節】より

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