09.拳の道筋
暗黒料理店で食事をとりながら、ポリーヌは食いつくようにヤルル老師に尋ねていた。
「わたくしの闘気がハオには見えてしまいますの? それで動きを事前に読まれると?」
「端的に言えばその通りですじゃ」
ヤルル老師はうなずき、地獄チキンをほおばった。
「これから右の拳でお前の左わき腹を殴るぞーっ! と事前に告知されていれば、それを止めることは容易いでしょう」
「確かに……」
ポリーヌは破滅のサラダを食べる合間に、納得してうなずいていた。
「しかし、わたくしは今までこの覇王拳で多くの拳術使いを沈めてまいりましたのよっ! 技のスピードには自信がありましたのに」
「ポリーヌ殿の拳術には、確かに覇気とスピードがありますな。並大抵の者であれば、剛拳で粉砕もできましょう」
「でも、このままではハオには通用しない。そういうことなのですわね?」
暗黒茶を一口すすって、ヤルル老師はうなずいた。
「ハオ殿は天才であられる。身体性能は高く、心は落ち着いており、何より動きを見る目に優れておりますじゃ」
「わたくしでは勝てないのかしら……。私は今日まで血のにじむような努力をして、覇王拳の高みを目指して来ましたのに」
「拳の相性もありましょう。ハオ殿の流派である胡蝶拳は、あなたの覇王拳のような剛拳に対抗するべく生まれた流派と聞いておりますじゃ。直線的な動きの多い剛の拳に対して、それと向かい合うのではなくいなす、ということに重きを置いているといいますじゃ」
「では、どうしたらわたくしはハオに勝てますの?」
「戦型を変える、というのが一つの考えですじゃ」
ヤルル老師は暗黒茶をすすった。
「この私に覇王拳を捨てろとおっしゃるのですかっ!?」
「そうではない、ポリーヌ殿。戦いの手札を増やすということですじゃ」
「手札を増やす?」
「相手によって、または局面によって戦い方を変幻自在に変える。覇王拳をその手札の一つとして用いるのですじゃ」
「様々な流派の戦型を取り入れるということですのっ? そんなこと、一朝一夕で出来るようなことではないでしょう!」
ポリーヌは反発した。付け焼刃で他流派の技を組み込んだところでハオに勝てるというイメージは湧かなかった。
「もちろん、選ぶのはポリーヌ殿。ワシは一つの道筋を提案したまでですじゃ。覇王拳を研ぎ澄ませてその先にハオ殿に拳が届くという道もあるかもしれませぬ」
フォッフォッフォ、とヤルル老師は笑った。