08.老師との再会
ハオと別れて数日、ポリーヌは悩んでいた。
心の荒ぶるままに道場破りを続けるということも考えたのだが、それはなんだかハオに嫌われそうな気がしていた。
ポリーヌは王都の外れにある公園の森で一人、イメージの中のハオと戦い続けていた。
しかし、どのように動こうとしても、ハオに勝てる絵図が浮かばなかった。
技のスピードに自分が劣っているとは思わない。しかし、ハオの動きはつねにその上を行っていた。
答えもヒントも見えないまま一人で時間を過ごすことを繰り返していたが、やがて空腹を覚えたので暗黒料理店で食事をとることにした。
王都の裏路地への道すがら、出会ったのはヤルルという道場主の老人であった。
散歩中にハオと出会い、道場破りを仕掛けたポリーヌと引き合わせた人物である。
「数日ぶりですわっ、ヤルル老師」
ポリーヌは武人らしい礼節をもって、立てた掌に拳を合わせてお辞儀をした。ヤルルもまた同じ所作で挨拶を返した。
「これは、道場破りのご令嬢。たしか、ポリーヌ様とおっしゃったか。ハオ殿と再び試合うおつもりとか」
「ハオからお聞き及びでしたのね。いかにも、そのつもりですわっ!」
と、ポリーヌは鼻息荒く受け応えた。が、続く言葉は我ながら自信なさげに響いた。
「……しかし、どのように思い描いても今のところ勝ち筋が見えませんの。こちらがどんな技を繰り出そうと、どんな速度で攻撃を仕掛けようと、ハオには通じないように思われて」
「ふむ。それはお悩みのようじゃ」
ヤルル老師はフォッフォッフォと、好好爺らしい笑い声を立てた。
「この老いぼれで良ければ、一緒に考えて差し上げましょう」
「本当ですの!? わたくし、道場破りだなんて非礼を働きましたのに……」
「血潮の走る若い時代には、わしもよくやったものですじゃ、道場破りは」
ヤルルはまた笑った。
ヤルル老師は道場の門下生への指導を師範代にすっかり任せているようで、当人は健康のためにちょくちょく散歩をしているのだという。
「散歩は良いですな。四季の移ろいによって見える景色も変わってきますし、毎日少しずつ何かが違うのですじゃ」
「はあ……、そういうものでしょうか」
さして興味の湧かない話だと思いながら、ポリーヌは曖昧に答えた。
「あなたの拳には闘気が溢れすぎている」
と、歩きながら唐突に老師は言った。
「え?」
「あなたが次に何をしようとしているのか、ハオ殿にはまるで事前に宣言されたかのように分かってしまうのですじゃよ」
フォッフォッフォ、と老人は笑った。