05.つないだ手
「と、ところでハオさん?」
「え? ああ、ハオでいいよ、ポリーヌ」
道場の門下生たちが見つめる中、ポリーヌは顔を赤らめながら、勇気を出して切り出してみた。
「このわたくしを打ち倒した褒美といってはなんですが、何かおいしいものをごちそうして差し上げましてよ?」
「え! 本当? 僕、ちょうどお腹がすいていたんだよねー!」
ハオは邪気のない笑みを浮かべて喜んでみせた。
「ポリーヌは何が食べたいの?」
「そ、そうね……。庶民の方たちが召し上がるような、品のない料理をたくさん平らげてみたい気分ですわね」
「そっか! じゃあ、僕の知っている安くておいしい店に案内するよ!」
(ふ、ふたりで食事を共にすることになってしまった!!)
自分から切り出したこととはいえ、あっさりと決まってしまったことにポリーヌは内心で驚いていた。
「よし、じゃあ行こうポリーヌ!」
ハオは気軽にポリーヌの手を取った。
(きょ、今日初めて会った殿方と、いきなり手をつないでしまいましたわっ!)
ポリーヌは恥ずかしさで顔から火が出る思いだった。
(し、しかも多くの人の目がある中でっ!)
ハオは後ろを振り返り、師範に軽く礼をした。
「じゃあ、また来ます老師!」
「おお、また会いましょうハオ殿!」
道場の看板を守られた門下生たちが一斉にハオに礼をした。
「こっちだよポリーヌ!」
ハオはポリーヌの左手を引いてどんどん引っ張っていく。
(まあ、ハオ様ったら、強引なんだからっ!)
今まで恋愛経験の少ないポリーヌは、ハオにどきどきしっぱなしであった。
男というものは、気に入った相手を見つけた時にぶん殴って言うことを利かせ、自分のものにしてしまえば良いのだ。
そのように考えていた節のあるポリーヌだった。
(いつかは自分より強い男に出会ってみたいものですわっ)
などと考えてもいたポリーヌだったが、その相手が可愛らしい年下の男の子になろうとは夢想したこともなかった。
つないだ手を引っ張られながら、ポリーヌは夢心地であった。
顔立ちが薄味ながら、ハオは十分美少年と言って通る相手である。
そんな彼が、男らしい強引さで自分をどこかの料理屋に引っ張っていこうとしている。
なんだかふわふわした気分で、ポリーヌは手を引かれるがままにハオの後をついていった。
やがて、彼らは小汚い裏路地の一角にある古びた料理店の前にたどり着いた。