03.感じる拳
少年ハオを一撃で沈めるため、ポリーヌはいきなり天翔覇王撃を放った。
覇王の闘気を肩口から放出させる体当たりのような技である。まともに食らえばどんな大男でものけぞって宙を舞う。
だが、ハオは立てた左の手のひらでポリーヌの巨体を受け流して左に身をかわし、空いた右の拳でトン、と軽くポリーヌの右わき腹を小突いた。そしてサッと後方に下がった。
「!!?」
ポリーヌは驚き、ハオのほうを見やった。
己の攻撃速度には絶対の自信を持っていた。だが、ハオの動きはそれを予想していたかのように素早かった。
なにより、今、わき腹を小突かれた!?
初めての経験に、ポリーヌは今まで感じたことのなかった、ゾクッとする感覚を覚えていた。
それがなんなのか分からず、ポリーヌはわずかな恐れを振り払って苛立った。
そして、ポリーヌのはらわたは煮えくり返った。
素早さが身上というわけか? ならば捕まえて締め上げてやるっ!
両手を広げ、うさぎでも捕まえるようにハオに近づいていく。
その細い体を捕獲しようと腕を伸ばした瞬間、ハオは素早く身をかがめてポリーヌの両腕をすり抜けた。
そして今度は右に体を交わし、素早くポリーヌの背後に回って、腰のあたりを拳でトン、と小突いた。
(あっ……!)
ポリーヌはまた、全身がゾクッとするのを感じた。
(なに、この感覚はっ!?)
ハオという少年が自分に何か術のようなものを仕掛けたのかと、ポリーヌは疑った。
ハオに体を触られるたびに感じるこの感覚は、認めるのも悔しいながら「快感」であった。
闘いの中で敵を打ち倒すのとは明確に違うが、ハオに体を触れられるたびに身体と心が喜んでいるのをポリーヌは自覚した。
そして、強烈な屈辱を感じた。
一見柔和そうに見えて生意気極まりないこの小僧さんを、道場の床に打ち倒して泣かせてやらなければ気が済まない。
ポリーヌは稲妻のような連撃を放った。
覇王闘将拳からの、覇王斬。そこから悠久覇王脚への連続技である。
しかし、そのいずれもがハオによって寸前で見切られてかわされてしまった。
さらに、屈辱的なことに技の最後を繰り出した後、またしてもハオに拳で小突かれて、ポリーヌは快感に身悶えしてしまったのである。
(こうなれば、最終奥義をだすしかない! ですわっ!)
怒りの心をなんとか沈めて、ポリーヌは深く息を吸って長く吐き出した。
そして全身を駆け巡る覇王の闘気を両掌に集め、ハオに向かって掲げた。
「最終奥義! 覇王極熱波ーっ!」