13.剛拳淑女ポリーヌ
覇王極熱波。
それは、覇王拳の秘奥義であり、ポリーヌが持つ技のなかで最強最大の力を誇る最終武器であった。
全身を駆け巡る闘気を両掌に集めて気合と共に放出し、相手の身を焼くような衝撃波を放つ。
ポリーヌはこの一撃で闘いの勝敗を決める覚悟であった。
以前にこの技を使いかけた時には気の流れで技の発動を察知したハオにより、事前に技の発動を阻止された。
(今回は、外さないっ! ……ですわっ!)
ポリーヌは闘いの疲労で動きが鈍ったハオに、闘気の集中を隠したまま技のモーションを終えていた。
そして、ハオの眼前に両掌をかざして叫び、気合と共に闘気の衝撃波を放出した。
「――――っ!!」
ハオは驚きに目を見開いたまま、ポリーヌが放った闘気をまともにその身に受けて吹き飛んだ。
(やった……ですわっ!)
ハオの小さな体は衝撃波に吹き飛ばされて闘技場の外枠を越えて場外に放り出された。そして、地面の上に倒れた。
「場外っ! 勝者、ポリーヌ!」
武闘大会の審判が赤い旗を上げてポリーヌの勝利を宣言した。
ポリーヌは勝利の喜びを味わう間もなく、ハオの身を案じて駆け寄った。
「ハオ! 大丈夫でしてっ!?」
「……ポリーヌ、僕は負けたんだね。覇王極熱波、聞きしに勝る威力だな」
「しゃべらないでハオ。今、医療チームが来ます!」
「大丈夫、僕はこう見えても結構頑丈なんだ」
驚くべきことに、手加減なしの覇王極熱波を受けてもなお、ハオは身を起こして立ち上がれるほどだった。
「完敗だよポリーヌ。今度は僕が君に再戦を挑むために鍛え直さなくっちゃね」
「それはいつでも受けて立ちますわっ! ……その、ところでハオ。わたくし、あなたにもし勝てたら言おうと思っていたことがありましたの」
「? なんだいポリーヌ」
ポリーヌは顔を赤らめてもじもじしていたが、やがて勇気を出して言った。
「ハオ。わ、わたくしとその、男女交際してくださらないかしらっ!?」
「……ポリーヌ、僕は実は年下が好きなんだ」
「え?」
ポリーヌはがくぜんとした。
「いや、ごめんごめん。冗談だよポリーヌ! うん、付き合うよ。前にも言った通り僕より強い女の人には惹かれるからね」
「!!」
ポリーヌは喜びと興奮に我を忘れて、思わずハオの身体を持ち上げて抱きしめた。
「く、苦しいよポリーヌ……」
「あ、あらごめんあそばせ。わたくしとしたことがっ!」
ポリーヌは慌ててハオを地面に下した。
横で黙ってみていた審判が咳ばらいをした。
ポリーヌが振り返ると、ポリーヌの右腕を掲げて
「これにて今回の武術大会の優勝者は決まった! 優勝者、ポリーヌ!」
と叫んだ。
会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
こうして最強を求めたポリーヌの闘いはいったん幕を閉じた。
道場破りに敗れた代わりに、王都の武術大会で優勝を治め、ポリーヌは恋の勝利者にもなったのである。
(完)