12.天才と異才
「まさかポリーヌ、君が他流を取り込んでいたとはね。しかもこの短い期間でそれを自分のものにしているとは」
ハオは賞賛の笑みを浮かべたあと、真顔になった。
「複数の流派から技を取り込んで編み上げた僕の無風拳、これと同じようなことを君がやっていたとは」
「ヤルル老師のご指導のたまものですわ」
「プライドの高そうな君が老師に頭を下げたのかい? ますます興味深い。ポリーヌ、君は変わったんだね」
「あなたに負けてわたくしは変わったのですハオ」
ポリーヌは笑った。初めてハオが自分を対等のライバルと認めてくれたように思えた。
「先ほどのような連撃、もはやわたくしには通用しません」
「ならばこれはどうかな?」
ハオは体をかがめて地を這うような動きをしてきた。
ポリーヌはハオが繰り出してきた地の底から伸びあがってくるような打ち上げの拳をすんでのところでかわし、ハオの眼前で素早く稲妻のようなフックの連打を浴びせかけた。雷鳴拳の技の一つ、迅雷鼓動拳である。
ハオはその多くをとっさに手で払ったが、数発の拳を顔や身体に被弾した。
(当たった! ……ですわっ!)
ハオの攻撃に呼応して繰り出した反撃が、ようやく天才少年を捕らえた。もはやハオは手の届かないところにいる相手ではなかった。
(わたくしの拳が、ハオに届きましたわっ!)
しかし、一瞬の油断をハオは見逃さなかった。ポリーヌの気が緩んだ隙を捕らえてハオは大ぶりの回し蹴りをかましてきた。
ポリーヌの防御が遅れ、ハオの右足の甲がポリーヌの腰を捕らえた。
じぃいん、と痺れるような鈍痛と快感がポリーヌの身体を包み込んだ。ポリーヌは歓喜した。
ハオと互いに同格の相手として拳を交える喜び、そして、ハオが与えてくる痺れるように甘やかな痛み。
わずか14歳にして武術大会の決勝まで勝ち上がってきた天才少年、そして恋する相手であるハオとこうして対等に戦えている。
ポリーヌはそのことに満足していた。
ずっとこうして、いつまでも闘っていたい。
ポリーヌはハオの蹴りを受けたお返しのように、軸足に体重を乗せて何発もの蹴りを降りしきる雨のように素早く繰りだした。雷鳴拳の奥義、雷鳴豪雨脚である。
そのすべてがハオによって見切られて受け止められるのは織り込み済み。
ポリーヌはハオがわずかによろめいた隙をつき、気の流れを外部に漏らすことなくその両掌に練り上げた。
迅雷のように近づき、そして、ポリーヌは放った。
「受けよ、覇王拳秘奥義・覇王極熱波ーっ!!」