11.武術大会
そうして覚醒したポリーヌは、様々な流派の門をたたいた。
今度は非礼な道場破りとしてではなく、礼節を持った試合の申し込みによって知己を得た。
ポリーヌはそれまでの我欲を捨て、各流派の良いところを全て吸収した。やがて季節は巡り、武術大会の日がやってきた――。
参加者のうち、王都を震撼させたのは二人。
若き天才として知られ始めていた小柄な美少年のハオと、威風堂々たる偉丈婦のポリーヌ。
二人は他の参加者を苦も無く倒して、互いに決勝に進んでいた。
そして、いよいよ決勝戦が開始された。
「やはり勝ち上がって来たねポリーヌ」
ハオは嬉しそうに顔をほころばせてポリーヌと対峙した。
「君と決勝で戦えるなんて嬉しいよ」
「相変わらず余裕ぶっこきまくっていますわね、ハオ」
ポリーヌはしばしの間恋を忘れることにした。
「このわたくしを、以前のわたくしと同じだと思っていたら痛い目を見ますわよ?」
ポリーヌは静かに拳を構えた。
「本当だねポリーヌ。あの湧き上がるように見えた闘気が、今はもう見えない」
ハオは以前と同じ自然体のまま、にっこり笑った。
「闘気を内に秘めることを覚えたんだね。これでは先手を取りにくいな」
「ならばこちらからまいりますわっ!」
ポリーヌは動いた。
左拳の連撃から右拳の回旋撃。それらのすべてがハオによって見切られることは織り込み済みだった。
会場の端、そこから出たら即座に負けという線の際にハオを追い詰めてから、ポリーヌはさらに左の角に向かってハオを追い込んだ。
武闘場からの落場を狙うのが一つだったが、せめて一撃をハオに届かせたかった。だが、今一歩届かない。
武闘場の端に追い詰められたハオは少し身をかがめた。
そして、驚くべき跳躍力でポリーヌの頭上を越えて、その背後に着地した。
「馬鹿なっ! ですわっ!」
ポリーヌは素早く振り返って身構えた。形成は一瞬にして逆転し、自分のほうが今や武闘場の端のほうにいる。
ハオが先ほどの自分と同じような攻撃に出れば、自分は容易に端に追い詰められてしまう。
「こんどはこっちからいくよ、ポリーヌ!」
ハオが流れるような動きで迫ってきた。自然体の姿勢から攻撃動作までの動きがよくわからなかった。何か、だまされているような気持ちになる。
ポリーヌは瞬時に思考を切り替え、覇王拳から東風拳へと流儀をスイッチした。
全てを打ち壊して進む覇道の剛拳から、春風のように柔らかで流麗な拳へと、そのスタイルを切り替えたのだ。
東風拳の構えからポリーヌはハオの連撃を全て回避し、あるいは受け止めた。
「!!」
ハオは驚いた顔をした。