01.赤いドレスの女
「どっせええいっ!」
腹の底に響くような気合と共に道場の扉は壊された。
中に侵入してきたのは身の丈1.8メートルはあろうかという巨女であった。
豊かな金髪の髪を縦巻きのカールにしている。
「わたくしの名はポリーヌ! この道場の看板をもらい受けに来ましたわっ!」
門下生たちがざわつく中、中堅どころの門下生たちが3人、不埒な侵入者の前に立ちはだかった。
ポリーヌと名乗った巨女は、そこいらの男など目ではないほどしっかりした骨格をしており、筋肉も目立った。
その鍛え上げられた肉体に、赤を基調とした豪奢なドレスを身にまとっている。
顔つきは精悍といって良く、整ってはいるが男性的な顔立ちをしている。
肉体派の男が女装をしているのだと言われたら、大半の人間は「ああ、そうか」と納得してしまいそうであった。
しかし、彼女が男性ではない証拠に、その胸元は豊か――というより迫力があった。
年若い門下生の中には、思わずポリーヌの胸に目が行ってしまい、顔を赤らめる者たちもいた。
「な、何者だ! 道場破りとあれば女とて容赦はせぬぞっ!」
ポリーヌより頭半分は背が低い男が前に出てポリーヌをにらみつけた。
「語るに及ばずっ!」
ポリーヌは女性にしては低い声で一括し、気合と共に一撃で小柄な中堅門下生を吹き飛ばした。
「我が覇道の前に立ちふさがる者あれば、何者であろうと打ち倒すのみっ! ……ですわっ!」
「な、なんだ今の技はっ!」
「速くて見えなかった……」
道場にいた門下生たちがざわめいた。
「なにごとだっ! 何の騒ぎだっ!?」
そのとき、ちょうど厠へ行って席を外していた師範代が戻ってきた。
「道場破りです!」
「なんだとっ!?」
大柄な彼に門下生の一人が叫び、師範代はようやく事態を飲み込んだ。
そして道場の奥からのしのしとポリーヌに歩み寄って、彼女の眼前に立った。
「どこのご令嬢か存じ上げませんが、少々おイタが過ぎてはいませんか? せっかくのお召し物が痛まないうちにお引き取り……」
「問答無用っ!」
ポリーヌは神速の動きで師範代に体当たりのような攻撃を食らわせて吹き飛ばした。
「!!!!?」
その場にいた誰もが、ポリーヌの動きを正確に目で追うことができなかった。
ポリーヌが叫んだと思ったら、次の瞬間にはすでに師範代は吹き飛ばされていた。
「弱いっ、ですわっ!」
ポリーヌは翻ったドレスの裾をパン、パン、と両手で払って、それから崩れかけた髪の毛をさっと撫でて直した。
ポリーヌ以外の誰もが言葉なく、その場に凍り付いていた。