第6話 右に向かって
ラシルは昨日、たくさん働いたからか今日の目覚めは遅く昼ぐらいになってしまった。
外を覗いて見ると今日はどうやら雨が降っている様で、外での活動は止めることにする。
今日一日は自分の能力についていろいろと検証する時間にしようと思い、昼食を済ますとまずは昨日、進化した精霊について検証を始める事にした。
昨日進化した精霊は5匹で、木、土、光、金、月の精霊となりそれぞれの小精霊から進化していた。
ちなみに召喚時には召喚した数分だけMPが消費される。小精霊なら1減り、精霊を召喚すると小精霊5匹分なので5減ってしまう。
これは物を変化する時でも一緒である。MPはしばらく時間が経つと回復するが、回復スピードもステータスで変わると思われる。
というのも昨日からMPが回復するスピードが今までよりも早い気がするのだ。
考えられる要因としては、MPの総量によって変わるのか、魔力のステータスによって変わるのかあるいはその両方が影響しているのかもしれない。
ただ回復すると言ってもまだ微々たるもので召喚や変化用にある程度は普段MPを残して行動しているが今日は、探索もしないので検証の為だけに使用する。
後、吸収に関してはMPはいっさい使用しないので使いたい放題だ。
まずは、木の精霊を召喚してみた。木の精霊からは草や木の枝などが生成され、それらを吸収すると吸収した物に追加されていた。だが、1匹の精霊ではそれ程多くの物は生成出来ずにそれぞれ1つ分吸収したところで元に戻った。
次は、土の精霊を召喚してみた。土の精霊は粘土を生成出来るようで、試しに皿やコップなどを作り、床に置いておいた。これが乾いて固まり、使用できるようなら、いろいろな物が作れそうだ。
その次に召喚したのは、光の精霊でこれは単純に辺りを照らしてくれるようで、魔力を込めて見ると光が強くなるようだった。夜や光が差し込まない洞窟などで召喚するのが良いだろう。
3匹を召喚した後は、MPも減ってしまったのでおやつとして林檎を食べて小休止した。
ご飯を食べるとHPやMPが回復するみたいで、閲覧で確認しながら食べているとちょっと回復してるのが見える。HPは魔物からダメージをまだ与えられた事がないが、畑仕事などで疲労が溜まると減っていたりした。
MPが回復したので次は、金の精霊を召喚したのだがこれには驚いた。というよりも歓喜したと言っていいだろう。
金の精霊はなんと青銅を生成する事が出来たのだ。例によって生成出来る量はそれ程多くは無いがそれは仕方ないとして、生成した青銅をさっそく吸収して変化させると青銅の剣に変化させる事が出来た。
試しに木を試し斬りすると容易く斬る事が出来た。今まで岩の槍で敵を突く事しか出来なかったがこれにより斬る動作が出来るようになったのだから劇的に闘いが楽になるだろう。
最後に、月の精霊を召喚してみたのだが、これは精霊の居る場所と自分の五感をリンクさせる事が出来る。月の精霊が居る場所の音や匂いを聞き感じる事が出来るし、触れれば触感や味もわかるし声を発する事も出来る。これは上手く使えばとても重宝する能力だと思う。
新しく手に入れた、それぞれの精霊の能力を確認してから火の精霊と風の精霊の能力も、もう一度おさらいしてみた。
火の精霊は文字通りを火を出す事が出来るようで、今までは火の形をしていたのでそのまま使用していたが、火も出す事が出来るようだ。だが範囲は狭く、目の前を燃やす程度の広がりで、こちらも光の精霊のように魔力を込めると火も大きくなった。
風の精霊も同様で、魔力を込めた分だけ風の勢いが増すようで、今は室内だからやれないが、火の精霊が出す火に風の精霊の出す風を吹きかけるれば広範囲に火が燃え広がるように出来そうだと思った。
最後に「髭」のスキルも検証してみた。ラシルは最初使えない能力だとは思っていたが、今回みたいな検証した時には、自身から生えている髭を触ると落ち着くので触りながら考えたりしていて、物思いにふける時には、よく触っている。
こうして髭をもじりながらだと良い考えが浮かんだりするので意外と役にたっている。
髭での検証で分かった事は、一つ目はまずは、長さや量を自在に変化させる事が出来る、どちりも魔力に依存する形で上限はあるようだった。次にわかったのは外部からの攻撃では消せない事、切ったり燃やしたりしても即座にまた生えてくる。長さや量も自在に変化させた後に攻撃すると、攻撃前と同じ状態へと直ぐに戻るようになっている。
次にわかったのは、髭も自分の身体の一部だという事、これは髭を変化させて剣にする事など出来た。
変化などは自分の身体しか出来ないので、髭を媒体にして敵への攻撃なども可能だろう。
そうこうしている内に、もう夜も更けて来たので今日はこれぐらいにして寝る事にした。
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朝起きてから外を覗くと太陽が出ていて雲一つない晴天だったので、今日は外に出て城壁の中を探索しようと思う。
現在、ラシルが把握してるのは、恐らく城跡だった所から自宅と城跡とは逆方向に繋がっていた城門までの道周辺だけであり、城跡の方向を見て右方向と左方向は全く把握が出来ていない。
まずは右方向の探索を行い、余裕があれば今日中に左方向の探索も行い、地理の把握をしたい。
思いたったら早めの行動をと、ラシルは朝食を作りといっても肉を焼くだけだが、それを食べて直ぐに出発をした。
昔は舗装されていたような道だが、今では獣道になってしまった道とは言えない道をひたすら進んでいくと少し広場のようになっていた所で、得体の知れない者達を発見する。「閲覧」で確認してみると茄子草と豆蛙という魔物だった。
茄子草は茄子が40cm程に巨大化し、それに顔がついている。ヘタは髪の毛見たいになっていて先端部分はしゃくれた顎みたいになっていて少し面白い生き物となっている。顔の部分からは蔓のような物が数10本程生えていてそれが手足の代わりみたいな役割をしている。
豆蛙は緑色の豆が20cm程に巨大化して顔がついていて、頭からは2本の触角のような物が生えている。顔からは蛙のような手足が生えていてそれでぴょんぴょん飛び跳ねている姿を想像した。
その2体がお互いを警戒しながら見合っていた所に遭遇したのだが、幸いまだ2体はラシルに気付いていないのでそのまま隠れて様子を伺っていると、豆蛙が突如触角から1cm程の無数の豆を弾丸の様に茄子草に飛ばした。
茄子草はそれを蔓を鞭のようにして叩き落としていたが数が数なので被弾している箇所もあり所々に穴が空き、瀕死の状況になっていたが、豆蛙の弾切れか攻撃が止んだので蔓を纏めて槍みたいにして豆蛙を突き刺した。
その攻撃により豆蛙は倒れ絶命したのを見て茄子草は豆蛙に近付こうとしたところで、しゃくれた顎から突如生えた髭から変化した青銅の剣により頭を突き刺され茄子草も絶命した。
ラシルは茄子草の様に倒した直後の油断などないように周囲の警戒を解かずに近づき、2体から出た小精霊を吸収してから変化させた荷車に2体を入れてそのまままた進んでいく。
右方向の壁に到達するまでにも同じ様なクリーチャーや玉ねぎのクリーチャーである玉ねぎ蜥蜴なども倒した。
元野菜のクリーチャーが多いのでここは昔は農場エリアだったのかもしれない。野菜がどうやって小精霊を取り込んだのかはわからないが、食材としては申し分無さそうだ。
多くの野菜を収穫したので、そのまま道を引き返して自宅へと帰還した頃には昼頃になっていた。早速、収穫した野菜型のクリーチャーを昼食にしようと解体していると、豆蛙の血から食欲を唆るような匂いがしてきたので舐めて見ると味が濃過ぎて辛く感じて直ぐに水を飲んだ。血はそのまま置いておき、解体した茄子をフライパンで炒め食べようとした時にふと、この血を使ったら味が付いて美味しいかもと思い、茄子にかけて炒めると非常に芳ばしい匂いがしてきて、たまらずに食べてしまった。
茄子はこの血を使って食べるためにあるかの様にとても美味かった。今まで塩しか調味料がなかったの食事もただお腹を満たすだけの行為になりつつあったのだがこの血は新たな調味料として食事への可能性として十分な素材となりそうだ。
豆蛙の血は醤油のような物です。