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「アディリナねえさまっ」
アディリナの自室へと尋ねて来たのは末の弟のクラウスだった。
その言葉と態度が普段と変わらない様子に感じられた。
「…クラウス」
しかし、アディリナは末の弟の名を心配そうに呼びかけた。
先日、イスマエルから王城への立ち入りを禁じられた第六妃ナタリナ。
彼女はその足でほとんど何も持たず、1人王城を後にした。
ナタリナの産んだ幼い3人の弟妹たちは、あまりに突然に母という存在を失ってしまった。
原因は全く持って異なるが幼い頃に突如母を亡くしたアディリナは痛いほど下の兄弟の3人の気持ちが分かるつもりだった。
部屋に入り、ソファに腰掛けるアディリナの腰に抱き着き甘えるクラウスの頭を優しく撫でる。
その手つきに心地よさそうにクラウスは目を閉じた。
「アディリナねえさま、もうお身体の方は大丈夫ですか?」
そう伺うようにクラウスは態勢上自然と上目遣いでアディリナを見上げた。
アディリナはそれに微笑みながら答える。
「私はもう大丈夫よ」
もう一度クラウスの頭を優しく撫で上げた。
愛する母を失ってしまったこの小さな弟の心に、姉として寂しさに精一杯寄り添ってあげよう
そう心に決心した。
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月光の差し込む綺麗なお部屋
彼女の人生の最高の幸福を掴んだこの部屋で、私はすべてを終わらせてあげよう
フェリシナの代わりだと言われてきたが、私はそれを知らない。
ただその色を求められて、それに答えてきたつもりだった。
その中で、ただ少しでいいから私を愛してほしい。それだけだったのに。
月の差し込むこの城で2番目に光が入る部屋
春夏秋冬の季節を感じられ、穏やかな暮らしができる部屋
そして月が城の真上に上るこの時、
月光とは別に、温かい赤に囲まれるこの部屋で小さな家族4人は身を寄せ合って寂しくないように終わりを迎えた




