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「…ふぅ」
ネグリジェに着替えたアディリナは行儀がよくないが、自分一人だけだからと思い、ベッドへ飛び込む。
同年代と比較すると体力の少ないアディリナの身体はくたくただった。
デビュタントで大勢の前に出て、多くの貴族と挨拶
そして、十数年ぶりに自身の祖父と伯父との再会
カールとのダンスを終えた後、さらに多くの男性からダンスを申し込まれ、時間が許す限りそれに応じ続けた
デビュタントが終わった時にはアディリナは疲労困憊してしまった。
ベッドに横たわっているだけで、瞼が重くなってくる
眠ろう、今日はもう眠ってしまおう
それから寝息が聞こえてくるのはすぐだった
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今宵も月が出ている
満月。普段よりも明るい月明りが照らしていた
アディリナの部屋を見上げる存在が1人
1番上の兄、セドリックだ。
今はデビュタントが閉幕し、月が空の天辺へと登る夜の深い時間だ
深夜にも関わらずセドリックはただ、ただその部屋の窓の一点を見つめるのみ。
先ほどの彼はデビュタントで普段通り穏やかな笑みをかべ、貴族や子女たちを普段と一切変わらずに相手にしていた。
しかしそんな普段通りのセドリックを狂わす唯一の存在
自身の弟の腕の中で踊るアディリナ
多くの子息達に囲まれるアディリナ
そしてその全てに、微笑みかけるアディリナ
あの微笑みは昨日まで自分にだけ向けられていたはずなのに
優しい手で、温かいその身体で包み込んでくれるのは自分だけだったはずなのに
『第二王子と第六王女は、仲睦まじいのではないか?』
貴族達の噂するその言葉が頭から離れなかった。
―信じたくない、信じたくはなかった―
だからこそ今、セドリックはここに来ている。
いつものように慰めてほしかった
いつものように優しく抱きしめて、温めてほしかった
いつものようにセドリックを肯定してほしかった
明かりの消えたその窓を見つめる
どうして、どうして今日は来てくれないの?
早く、早くここにいるから、その窓を開けて。
―僕は、もういらないの?―
セドリックの青い瞳から大粒の雫が地面へと落ちた
その時だった
『じゃあ、じゃあ!今度は俺にやらせてくれよ』
セドリックの頭の中に一つの声が鳴り響いた
『セドリックとセドリックの代わりに俺が王になってやる』
確かに自身の声であるはずなのに
その声は、セドリックでもセドリックでもなかった
『俺がアディリナもすべて手に入れてやるよ』
長らく更新を止めてしまい申し訳ありません。
仕事が立て込んでおり、毎日更新が難しいかもしれませんが、空き時間見つけて更新続けてまいります。




