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「ヨハンお兄様?」
うつむき黙りこくってしまったヨハンに気づいたアディリナはヨハンに声をかけるが、ヨハンからは何も返答はなかった。
そこでようやくカールはアディリナが視線を向ける先にいるヨハンを見やる。
カールにとってヨハンは特に気にとめる存在ではなかった。
数ある兄弟の中の1人。それだけの認識である。
だが、うつむきどこか悲哀を漂わせるヨハンに愛しいアディリナの意識が向けられていることは気に食わなかった。
「すまないが、ヨハンを少し休めるところに。」
近くを通る給仕へと声をかける。
「アディリナ。ヨハンは少し疲れたのだろう。休ませてやろう。」
使用人に支えられ、ヨハンはその場を立ち去る。
心配そうにヨハンの背を見つめるアディリナにカールはそう声をかけ、意識を自身に向けるようアディリナの肩を抱いた。
その時だ、会場を流れる音楽が変わる。
「アディリナ、踊ろうか」
そう言って、カールは手を差し伸べてくる。
「…あ、あの!カールお兄様。…私ダンスはあまり…」
差し伸べられた手を見つめ、アディリナは戸惑った表情を浮かべる。
なかなか手を取らないアディリナの手をカールは自ら掴んだ。
「大丈夫。そんなに難しいものではない。…俺に任せて」
そう言ってカールは優しく手を引き、アディリナをダンスの方のフロアへと連れていく。
まだ戸惑いが抜け切れていないアディリナの腰を抱き、ゆっくりとステップを踏む。
アディリナにとっては公式の場で、こんなにも大勢の中で踊ることは今日が初めてだった。
カールは自身の腕の中にいるアディリナを熱を含んだ眼差しで見つめる。
***
ああ、俺のアディリナ
今日のお前は本当に1番美しいな
もう少しだけ待ってくれ。
俺が王になったその時に、絶対に迎えにいくからな
***
しかしアディリナはその眼差しに気づかない
今のアディリナはカールの動きについていくのにあまりにも必死だった
ダンスフロアの中心で踊るカールとアディリナは会場の多くの視線を集める
騎士団でも有数の実力を持っており、王位も狙える第二王子であるカール。
多くの女性から求婚や好意を抱かれているが、彼はその人柄からあまり女性とダンスを踊るという事自体珍しかった。
そしてそのダンスの相手である、第六王女のアディリナ。
呪いを受け、誰からも相手にされない王女だった
そのはずだったのに。
アディリナの存在は、今日会場の人間すべての記憶に刻まれた
『第二王子と第六王女は、仲睦まじいのではないか?』
会場の人々はその曲が終わるまで、2人から視線を外すことはできなかった




