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3人が去った後、アディリナはようやく一息つく。
「アディリナ、大丈夫か?」
アディリナを気遣い、飲み物を差し出すのは4番目の兄であるヨハンだ。
「ヨハンお兄様、ありがとうございます。…ええ、少し大変でしたが大丈夫です」
アディリナはヨハンにお礼を言い、飲み物を口に含む。
自分で思っていたよりも喉が渇いていたようだ。
すっかりグラスは空になっていた。
「ヨハンお兄様も先ほどからたくさんの方がご挨拶にいらしておりましたね」
ヨハンは気乗りしないような表情になる。
「…ああ。今まではこんなことなかったのにな。」
今までのヨハンはこのような催しでこんなにも自身に人が集まったこと等なかった。
しかし今回サンチェス国との親睦会の主催を任されたこと、そしてその準備の際に類まれなる頭脳を発揮していることが多くの貴族に知れ渡ったことで、過去にないほどの大勢の貴族の対応に追われていた。
いつかの時は、セドリックやカールが多くの貴族に囲まれていることに羨望を向けていたが、実際自分がその立場になってみるとそれほど良いものではなかった。
「…それより、アディリナ。今日のお前はとても…」
そうヨハンが言いかけた時だ。
「アディリナ」
アディリナの名を呼ぶもう1人の声が響く。
その呼び声にアディリナよりも早くヨハンがばっと振り向く。
「カールお兄様っ」
振り向いた先にいたのはヨハン自身の腹違いの兄のカールだ。
顔を歪めるヨハンの一方、カールはヨハンの存在等特に気にも留めずアディリナの傍へと寄ってくる。
「ああ。今日のアディリナはいつにもまして美しいな。」
普段絶対見せないような表情、口角も上がっている。
そしてアディリナの胸元に輝く一粒パールのネックレスに手を添える。
「なっ!」
ヨハンの驚愕の声が漏れるが、カールはそれすら気にも留めなかった。
「これも今日のお前に相応しい。…やはり俺の目に狂いはなかったな」
カールの率直な賞賛の言葉にアディリナは思わず顔を染める。
目の前の2人の光景に、自身の無力さがヨハンの全身を襲った
ヨハンにとってカールは自身にないものすべてを持っている存在だった。
ヨハンがどんなに鍛えても得ることができなかった、類まれる武力、それに見合う体格。
自身が届きもしなかった兄と対等に王位継承を競い合い、母である第二妃には愛され期待される。
そして、誰に対しても常に動じずに堂々とした態度。
ヨハンにとってはカールは自身と正反対の存在で、彼のすべてが羨ましかった
そんなカールと目の前の愛しい美しい妹アディリナの中に自分の入り込む余地等ないと思えた
そうとしか思えなかった
カールの送ったネックレスを身につけ、アディリナがそのたった一言で頬を赤く染める
カールの行動は今のヨハンには決してできないことだった
そして目の前で自分との違いをまざまざと見せつけられたのだ
怒りよりも先に無力さが体中を走り抜けた
ヨハンの目の前は真っ暗になり、今にも膝から崩れ落ちそうだった




