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「アディリナ様、もうすぐ国王陛下がいらっしゃるとのことです。」
デビュタントの開かれる会場のすぐそばにある個室にてアディリナとリチャードは控えていた。
今は、会場にて今年デビュタントを迎える16歳を向かる歳の男女とその両親、そしてイヴァノフ王国の各貴族たちが既に会場にてイスマエルの挨拶を聞いている頃だろう。
アディリナが会場に向かうのはプリシナと合わせて、2人の姫が正式に王家の人間として社交界に出ていくことを示す発表の際だ。
イスマエルの挨拶の後に、その発表式が執り行われる。
そして、そんなアディリナをエスコートするのはもちろんイスマエル自身である。
デビュタントのエスコートを行うのは父や兄、婚約者が通例であるが、父がエスコートをする女性たちも少なくなってきていた。
しかし、イスマエルは自らアディリナのエスコートをすると言ってきたのだ。
アディリナは姉のプリシナの方は大丈夫かと尋ねたが、プリシナには正式な婚約はまだだが、婚約がほぼ内定している国有数の公爵家の嫡男がエスコートをするのだから心配ないと。
今はそんな父が挨拶を終え、アディリナを迎えに来るのを待っている時だ。
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アディリナは思いを馳せる。
呪いが解け、数々の出来事があったが、今このデビュタントを迎えるのにあっという間な気がしていた
なか
ベッドの中で身動きなどできず、ただただ呪いに苦しめられるあの長い年月からするとはるかに短い時のはずなのに
アディリナにとってはあまりに濃密な時間だった
母であるフェリシナと最後に交わした言葉
―いい、アディリナ。これから貴方が無事に生きていくためには、自分を守ってくれる存在を見つけるのよ―
―この世界では私やアディリナのような存在は誰かに守られないと生きていけないの―
母の教えの通りアディリナは今日まで多くの自身を守ってくれる存在を見つけ、そして愛してきた
そして今日のデビュタントを境に、社交界に出ることでさらに多くの危険に隣合わせになってしまうことだろう
しかしアディリナには不安はなかった
「アディリナ様、どうかなさいましたか?」
傍に控えていたリチャードが、椅子に座っているアディリナの傍に片膝をつき手を握り、問い掛ける。
アディリナはその存在に満足したかのように微笑む。
「…いえリチャード卿、少し考え事をしていただけです」
そういうと、リチャードは少し安堵したように顔に笑みを作る。
『コンコンコン』
「国王陛下がいらっしゃいました」
ノックの音と同じく、イスマエルの来訪を告げる声が響く
「さあ、参りましょう、リチャード卿。」
そう言ってアディリナは今度は自ら扉を開け放つ。
扉の先にはアディリナを待ち焦がれるイスマエルが穏やかな笑みを浮かべて待っていた。




