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ドレスを選んでいた時にはまだ2か月も先だと思っていたが、あっという間にデビュタント当日となってしまったことにアディリナは少し驚いている。
朝から夜に開かれるデビュタントに向けての準備で大忙しであった。
アディリナ自身よりもマーサを筆頭に、従者の皆の方が今日のためにと張り切っていた。
その日は早朝からずっと、あれやこれやと言われるがまま、されるがままされていた。
そうして過ごしている内にいつの間にか準備ができたようだ。
最後の仕上げをしたマーサがこれ以上にないほどうっとりとした表情でアディリナを見つめた。
「…アディリナ様、本当に今までで一番お美しいです」
恍惚な笑みでマーサはアディリナを見つめ続ける。
ドレスから、靴、髪型その化粧まですべてマーサが自ら手掛けたものだ。
唯一それ以外と言ったら、カールが送ったパールのネックレスだろう。
Aラインの薄桃色のドレスにトップは花模様をあしらったレース、腰回りに白いリボンが切り替えとなり、ふんわりと広がるドレス。
決して派手さはないが、逆にそれがアディリナ自身の美しさを際立てていた。
「アディリナ様、本当にお美しいです!」
衣装係のサラも目を輝かせ、感嘆のあまり声が大きくなっている。
マーサは感動でこれ以上の言葉が出なかった。
自分が今までやってきたことすべてが無駄ではなかったのだ。
マーサが今までも求めてきた最上の美が今ここに。
それも自分が手ずから作り上げた美なのだ
嬉しくないはずがない
言いたいことは山ほどある
しかし、今のマーサには自身の気持ちを何一つ言葉にできなかった。
マーサは『美』のために何もかもそれに賭けてきた。
自身の人生も、そのためには自身の夫も子供も例外ではなかった。
それでもマーサは『美』を育てたかった。
それが、それだけが、マーサを突き動かす唯一なのだから。
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「ねえ、マーサ」
姿見の前に立つアディリナはマーサに声をかける。
「どうされました、アディリナ様?」
後ろに立つマーサに、アディリナはくるっと向き直り微笑む。
「マーサ、今まで本当にありがとう。あなたがいてくれたから、全部ぜんぶあなたのおかげよ」
マーサ自身だけに向けられたその微笑みは、マーサが見た中で最も美しい微笑みだった。
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「国王陛下がいらっしゃいました。」
部屋の衛兵のそんな声が響くまで、マーサは思わずアディリナに見とれてしまった。
「…とんでもございません。私の幸せは今までもこれからお傍であなたのお世話をすることなのですから。」
その言葉を受けてアディリナはさらに美しく微笑んだ。




