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セドリックに連れられ、その後ろに隠れながらクラウスは部屋へと入ってきた。
「クラウス」
そんなクラウスをアディリナは優しい瞳で見つめ、名前を呼ぶ。
しかしクラウスはさらに身を縮こませ、セドリックの後ろに隠れる。
そんなクラウスの様子にアディリナは困ったように微笑む。
「クラウス、あの時のことはあなたは悪くないのだから気にしなくていいのよ。私は大丈夫だから。」
しかし、クラウスは何も答えなかった。
セドリックの服をつかみ、その背に隠れたままだったのだ。
「クラウス?アディリナに何か話があったのではないのかい?」
セドリックは片膝をつき、クラウスに視線を合わせて優しく問いかけた。
「うわああああんっ!」
突然の大きな泣き声をあげ、クラウスはアディリナのいるベッドへと走り寄る。
そんなクラウスにアディリナは驚いたが、自身の傍で涙を流す幼い弟の頭を撫でる。
「ふえっ、ひっく、ぼっくのせいで、ごめんなさいっ…!」
ベッドの上に座ったままのアディリナの腰に抱き着き、クラウスは泣きじゃくりながら謝罪の言葉を繰り返す。
「ちが、ちがうのっ、この前もぼく、アディリナねえさまにひどいこと言って…。うええんっ、本当に、ほんとうにごめんなさいっ」
セドリックもクラウスと親しいわけでは決してなかったが、このように年相応に泣きじゃくる末の弟の姿は見たことはなかった。
「クラウス、もう良いのよ。本当に私は大丈夫。だからね、もう泣くのは終わりにして、私に笑ったお顔を見せてくれない?」
未だに目に涙をたっぷり溢れさせたままだが、クラウスは顔をあげてアディリナと視線を合わせる。
ようやくクラウスと視線の合ったアディリナは嬉しそうに微笑み、クラウスの目に残る涙を指で拭った。
「クラウス、先ほど初めて私の事を姉さまと呼んでくれたのね。私それがとても嬉しかったの。もう一度だけ姉さまって呼んでくれないかしら?」
アディリナの嬉しそうな微笑みにクラウスは胸の奥が熱くなる。
「アディリナねえさま。…ほんとに、本当にごめんなさい」
「クラウスもう謝るのはやめましょう。私はあなたの姉で、あなたを守ることが出来て良かったと思ってるのだから」
アディリナにとって初めてかかわる自身より幼い弟。愛しく思わないはずがなかった。
「アディリナねえさまっ!」
そう言ってクラウスは強く強くアディリナへ抱き着いてきた。
アディリナはそれを拒むことなく、クラウスを抱きしめて優しく優しくその身体を撫でた。




