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視線を感じる
アディリナは視線の方向へ振り返るが、視線を向ける人物は、それと同時に柱に姿を隠す。
そうして、アディリナが再び前を向き歩き出すと、また柱から顔を出し視線を向けてくる。
アディリナが自室を出て暫くしてからだ。
この視線を感じるようになったのは。
アディリナのすぐ後ろに控えているリチャードとバレないように視線を合わせる。
リチャードはもちろんのこと、アディリナですらその視線に気づくほど、誰が見ても明らかであった。
しかしその視線を向けてくる人物が問題であった。
末の第九王子のクラウス・ル・イヴァノフ。
彼も父であるイスマエルの色を受け継ぎ、金色の髪に緩やかなウェーブがかかっている。
まだまだ幼い腹違いの弟が、少し前からずっとアディリナの様子を伺っていた。
どうするべきか
アディリナは迷っていた。
見つからないように隠れているのだから知らないふりをするべきか。
このままでは埒が明かないため、何をしているか問い掛けるべきか。
アディリナ歩きながらその答えを決め、リチャードに視線を向ける。
リチャードはアディリナの視線の意図を理解したのか、軽く頷いた。
そして、曲がり角に差し掛かる。
アディリナとリチャードはその角を右に曲がり、すぐにその傍の柱へと身を潜めた。
タタッと、軽くこちらに駆けてくる足音が向かってくる。
小さく幼いクラウスの姿が、アディリナの隠れる柱を通り過ぎ、キョロキョロと周囲を見渡していた。
曲がり角を曲がった2人の姿が突然見えなくなったことに驚いている様子だ。
そんな様子に、アディリナは後ろからそっと近づく。
そして、クラウスの肩にそっと手を置いた。
「うわぁっ!」
クラウスは心の底から驚いたようだ。
ぱっと後ろを振り向きアディリナの姿を目にとめて、膝から崩れ落ちた。
「まあっ!クラウス大丈夫?怪我はない?」
アディリナはそう声をかけ、気遣う視線を向け転んだクラウスに手を差し出す。
そんなアディリナの差し出す手を、クラウスはぱっと振り払った。
「アディリナ様っ!」
後ろに控えていたリチャードは、驚愕しアディリナの名を呼ぶ。
「おまえが!おまえが来たから!やさしいおかあさまがおかしくなっちゃったんだ!」
そう叫びながら、クラウスは自力で立ち上がる。
「おまえのっ、おまえのせいだ!」
クラウスは目を潤ませながらそう叫び、その場から走り去っていった。




