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「アディリナ様、セドリック王子殿下がいらっしゃいました。」
カールと分かれ、部屋へと戻ってきて暫くした後、アディリナの部屋を訪ねてきたのはまさかのセドリックだった。
夜中誰もいない庭園で泣くセドリックとそれを慰めるアディリナ。
セドリックがアディリナの元を訪れるのはその時だけだった。
こんな明るい時間にセドリックが訪ねてくるのは初めてのことで、アディリナは少し驚いていた。
「やあ、アディリナ。突然ですまないが、今少しだけ良いかな?」
部屋に案内されたセドリックは普段通りの穏やかな口調だったが、含みのある視線でアディリナへ言葉をかけてきた。
「もちろんです、セドリックお兄様。…マーサ、お兄様と2人にしてくださる?」
お茶を出してきたマーサにお願いし、部屋にはセドリックとアディリナだけの空間となった。
「突然ごめんね、アディリナ。」
謝罪の言葉を再び口にして、セドリックはお茶を口に含む。
「いえ、大丈夫です。セドリックお兄様、突然どうかなさいましたか?」
そう言って、アディリナはセドリックを見つめる。
普段の夜の幼い言動で泣いて甘えるセドリックとは全くの別人であった。
「そうそう、それでね。相変わらずセドリックが泣いて面倒をかけているようだからね。一言謝っておこうかと思って。」
アディリナは驚愕する。
まさかセドリック自身が、自身の行いを謝罪してきたからだ。
「あれ?どういうことか分かってないかな?」
相変わらず、セドリックは微笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「…セドリックお兄様?」
アディリナはセドリックが何を言わんとしているのか訳が分からなかった。
だが、夜のセドリックと今目の前にいるセドリックは違うことだけは断言できた。
「まあ、あのセドリックが上手に説明できるわけないもんね。私が簡単に説明してあげるね。」
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目の前のセドリックが言う事は、こうだ。
セドリックの中には2人のセドリックが存在している。
王太子としてのセドリックと、弱くて無力な幼いセドリック。
幼いセドリックが置かれた境遇に耐え切れず、自覚のないまま魔力で1つの人格を2つに分裂させてしまい、本来影であったはずのその人格が今はセドリックの主人格を担っているというのだ。
元来の弱いセドリックは王太子としてのすべてに耐えることができず、今は夜中の短い時間しか出てこれなくなったのだと。
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セドリックの説明は普通であれば到底理解しがたいものであったが、アディリナはなぜか腑に落ちた。
今まで感じていた違和感の正体はこれであったのだ。
人格そのものが別でなければ、今目の前にいる立派な兄があんな風に幼く泣き縋ること等考えられなかった。




