05
クランストン家は代々王家の護衛騎士を輩出する由緒ある公爵家だった。
その始まりはイヴァノフ王国建国にまで遡る
現クランストン家の4男であるリチャード・クランストンはイヴァノフ王家に仕え、アディリナ姫の護衛騎士となり5年。
彼はその任につきながらも、5年間自身の主と言葉を交わしたことすらなかった。
しかしそれも『当然』である。
アディリナ姫は11年間その身に宿す呪いによって生命力を奪われ、さらにその呪いは周囲にいるモノの生命力すらも奪うのだ。
護衛騎士となった魔力の持たないリチャードの役割は、アディリナ姫のいる離宮の安全を守るだけであった。
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護衛騎士となって5年、今日初めて自身の主と言葉を交わした。
「リチャード卿、今までの貴方の働きに心からの御礼を。」
「と、とんでもございません!お顔をあげてください!」
主からの感謝の言葉を受けてもリチャードは護衛騎士として、主であるアディリナが頭を下げる程の務めを果たしたとは思えなかった。
呪いのせいとはいえ、護衛騎士だというのに主の傍に付き添いその身を守ることさえなかったのだから。
それでもアディリナはリチャードの瞳を真っ直ぐに見つめ言葉を続ける。
「いいえ。マーサから聞きました。貴方は私の護衛騎士となってから、この離宮の警護を5年間一度もかかすことなく務め、私を守っていてくれたことを。」
「そ、そんな…。……私など…。」
一切逸らされないその視線と瞳にリチャードはとうとう耐え切れなくなり、自ら目を逸らすしかなかった。
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―いい、アディリナ。これから貴方が無事に生きていくためには、自分を守ってくれる存在を見つけるのよ。―
―この世界では私やアディリナのような存在は誰かに守られないと生きていけないの―
アディリナと母であるフェリシナの記憶はそう多くはない。
しかし、フェリシナは何度もアディリナに伝え聞かせてきた言葉は確かにアディリナの中に残っている。
母であるフェリシナと過ごした守られ、幸福な日々。
それを過ごせたのはフェリシナに魅了され、彼女を守る多くの存在があったからである。
美しくはあったが身分の低いフェリシナ
そんな彼女は自身を守るための闘い方を充分すぎるほど理解していたのだ。