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食事を終えた3人は、再び少女の母親探しに戻る。
最初は腕を引かれるままだった少女が1番先に勢いよくベンチから立ち上がる。
少し休んだ事で再び元気が戻ったようだ。
そして未だベンチに腰掛けていたイスマエルとフェリシナに向き直る。
「はいっ!」
そう言い、2人に向かって手を差し伸べる。
フェリシナはそれを見て、また嬉しそうに笑って少女の手を取る。
後は、イスマエルだけだ。
しかし相変わらずイスマエルは狼狽え、すぐに同じように手を取ることはできない。
今までイスマエルにこんな事を求めてきた者はいなかった。
ただ、立派な王としての自分だけしか求められてこなかったのだ。
最初と変わらずに手を取らないイスマエルにフェリシナはクスッと笑いが溢れた。
助け舟を入れるため、空いたイスマエルの手を優しく掴み、少女の手へと近づける。
「さあエル、早く行きましょう」
近づいたイスマエルの手を少女が自分からぎゅっと握った。
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3人で手を繋ぎ、祭りの中を歩き続ける。
変わらず街中がお祝いのムードに包まれ、至る所で賑やかな催しが開かれていた。
サーカスの演芸が開かれていたり、音楽隊の奏でるメロディに沢山の人が踊ったり歌ったりもしていた。
道端には露店も沢山開かれ、多くの人で賑わっていた。
「やあ、そこのお兄さん!家族3人で手を繋いで仲良しだねえ。」
飴細工を売る店主の男が声をかけてきた。
しかしだ。
イスマエルは最初自分に呼びかけられている事に全く気づかなかった。
「おいおい、そこの金髪の兄さん!飴細工なんかどうだい?」
金髪?
そう聞こえ、辺りを見回すが金髪なのはイスマエルしかおらず、ようやく自分に声をかけている事に気づく。
「そうそう!そこの仲良い家族の兄さん!せっかくの祭りだ、娘さんや奥さんに飴細工なんてどうだい?」
どの露店でも店主が客を誘うために呼び込みを行なっていた。
呼びかけられたその店主の言葉にイスマエルは心底驚いた。
私たちが家族だと?
「それにしても仲良いねえ、3人して手を繋いでさ。」
店主の言葉を聞いて、ようやく自分たちが他人にどう見られているのか理解できた。
幼い子供と男女が手を繋いで歩いているのだ。
他人から見たら、家族にしか見えないだろう
急にそれを実感したイスマエルは顔が熱くなる。
既にイスマエルには数名の妻も子もいたが、このように仲睦まじく手を繋いだ事などなかった。
自身からそれをやろうと思ったこともなかったし、相手から求められることもなかった。
そんな筈だったのに、今の自分はこの状況を容易く受け入れてしまっていたのだ。
「…わ、私たちはそんな…」
イスマエルが店主に否定の言葉を口にしようとしたときに、それを少女の声が遮った。
「この赤いお花、とっても可愛いねえ!」
少女が見ていたのは、赤い薔薇の飴細工だ。
「本当!とっても見事だわ。」
そう言ってフェリシナも感嘆の声を漏らす。
どの飴細工も細かい部分まで細工されていて、美しかった。
またフェリシナと少女が楽しそうに微笑む。
いったい何故なんだ。
イスマエルは、今日ずっと分からないことばかりだ。
先程会ったばかりの2人とこのように共に過ごしていることも
家族のように手を繋いでいることも
ましてやその笑顔を見たいと思うことも
「…店主、そちらの薔薇の飴細工2本包んでくれ。」
そう口から出てしまった言葉に、自分が一番驚いていた。




