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その別人格は、最初は影だった
ただただ弱い本来のセドリックの人格に静かに寄り添っていた。
しかしいつからだろう
影が光へと変わったのは。
影がセドリックの人格として主導権を握り始めたのは。
別の自分は皆の期待に応え、完璧に振る舞える
周囲の期待を裏切ることはない。
これで良いのだ。
だって、もう怒られるのも怖いのも嫌なのだ。
完璧な影の人格が大きくなればなるほど、本来の臆病なセドリックは出てこれなくなる。
今や本来のセドリックは1日の短時間にしか、身体を操れなくなっていた。
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今日も誰にも見つからないよう、夜中にセドリックは静かに涙をこぼす。
それは、後悔なのか自身の不甲斐なさなのか、それとも別人格と混ざり合った故なのか
なぜ涙が止まらないのかセドリック自身も分からなかった。
「…セドリックお兄様?」
誰もいるはずないと思っていたのに、自身の名を呼ぶ声が聞こえてセドリックはひどく焦った。
どうしようどうしよう、どうすればいい?
見つかってしまった、ドウスレバイイ?
こんな姿を見られたら失望される!
またあの恐ろしい瞳で見られるのは怖い。
怖い怖い怖い怖い、もう嫌だ。怖いのも怒られるのも嫌なんだ。
誰が助けて。
声の方に振り向くことなく、セドリックはしゃがみ込んだ。
涙を止めようと思っても一向に止まらず、こぼれ落ちる雫が地面を濡らすだけだった。
うずくまるしかないセドリックにその足音は近づいてきた。
もう動くことができないセドリックはぎゅっと目をつむる。
しかしセドリックは暫くそうしていたが、何が起きるわけでもない。
自身を責めるでもなく、人を呼ぶ声もしない。
そうしていると、セドリックは背に温もりと少しの重みを感じた。
「…大丈夫ですよ。セドリックお兄様。」
優しい手つきでセドリックの背をゆっくりと撫でる。
セドリックは自身の傍にいる人物が妹のアディリナであることに気づいた。
しかしすぐに顔を上げることはできなかった。
そうやってしばらく時間が経ったとしても、アディリナは優しい手つきで繰り返しセドリックの背をさする。
ついこの間王家に戻ってきた11年ぶりに会った妹。
表面的な話はしたが、ゆっくりと時間を取って会話をしたことなどなかったはずなのに。
しかしなぜかセドリックの涙はさらに溢れてくる。
初めてだった。
自身の泣いている姿を咎められないのも
優しく背中を撫でて、傍にいてくれる人がいたことも




