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久しぶりの2人の時間は穏やかに、そしてまたたく間に過ぎていく。
「ヨハンお兄様は、魔法はお得意ですか?」
話題がひと段落したときにアディリナは、ヨハンに問う。
「いや、あまり得意とはしていないな…」
質問の意図が読めなかったが、ヨハンはなんとなく返答した。
「先日魔導士のレナート様が訪れた際に、おっしゃっていたのです。セドリックお兄様は魔法もお得意なのだと!」
その言葉にヨハンは衝撃を受ける。
ヨハンは兄であるセドリックの事を話すアディリナの笑みが、自分と話しているときの笑顔よりも何倍も美しく映った。
―アディリナも、セドリック兄上の方が良いのか?―
嫌だいやだいやだいやだいやだいやだイヤダいやだイヤだ
自分より兄の方が優れていることは分かっている。
でもでもでも、嫌なのだ!
もしかして自分がサンチェス国との親睦会の準備をしている間、アディリナはセドリック兄上との仲を深めていたのか?
やはりアディリナも兄上の方が良いのか?
その微笑みをもう俺には向けてくれないのか?
イヤだいやだいやだ嫌だどうしようどうしよう
ドウスレバイイ?
ヨハンはうつむき、顔色がどんどん青白くなる。
「ヨハンお兄様!どうかなさいました?顔色がとても悪いです…」
どんどん悪くなるヨハンの顔色に、アディリナは体調を気遣う。
「…あっ、アディリナは…、セ、セドリック兄上の方が…良い…のかっ?俺のことは、も…もういらない?」
不安で不安でたまらないヨハンは尋ねずにはいられなかった。
かすれて声が震えていることなど、構いやしない。
今、アディリナに捨てられたらヨハンはもう立ち直ることはできないだろう
それほどまでにアディリナの存在はヨハンの中で最も大きい存在になっていた。
言いしれない恐怖に無意識のうちにヨハンの身体は小刻みに震えていた。
「ヨハンお兄様、どうしたのです?ヨハンお兄様とセドリックお兄様は比べることなどできないですよ。」
アディリナにはヨハンが一体何に怯えているのかが分からなかったが、そっとヨハンの手を両手で包み込む。
「でも私はヨハンお兄様とお話しているときがとても楽しいですっ。…私もヨハンお兄様がご準備でお忙しくなってしまって、私の事なんてお忘れになってしまったかと思って不安だったのです。」
その笑顔に少しだけ寂しさが現れる。
ヨハンは自身の手を握るアディリナの手に更に自分の片手を重ねる。
「…俺、俺はアディリナの事を忘れたことはないよ。だから…アディリナも俺の事を…」
縋るようにアディリナの手をさすりながら小さな小さな声で話す。
「セドリック兄上の方が…良くなってもいい、でもでも俺の、俺の事だけは捨てないでっ…」
うつむいているため涙を見ることはなかったが、嗚咽を漏らしながら必死に訴える。
ヨハンの手を包んでいた片手を離す。
離された手にヨハンは取り乱すように顔を上げる。
その双眼には確かに涙が浮かんでいた。
「…ヨハンお兄様、大丈夫。大丈夫ですよ…。私はいつもヨハンお兄様の傍におりますから。」
そっとその離した片手でヨハンの頭を撫でる。
最初こそ戸惑ったようなヨハンだったが、しばらくすると自分からその手に頭を擦り付けてきた。




