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セドリックはしばらく呆然と月を見て、そのまま夜の闇の中へと消えていった。
アディリナはセドリックが自身の姿に気づいていないことに今は安堵しかなかった。
予想外の唐突な出来事だっため、アディリナも今の光景を受け止めることに少し時間が必要だったのだ。
同じように月をみて思いを馳せる。
―きっとさっき見つかっていたら、私は選択を誤っていただろう―
アディリナには母から受け継いだ美しさ、そして人を慈しむ心を持っている。
しかし、決して女神のように万能ですべてを受け入れられるわけではない。
アディリナはまだ15歳の少女なのだ
今までがうまく行き過ぎていることには気づいていた。
父も兄も騎士も自身を守護する存在として味方につけることができたが、それでもまだ足りないのだ。
味方が増えれば増えるほど、敵が増える。
アディリナには、実際に権力の一切はない。
今のままでは自身を守ることすらできないのだ。
―あの誰からも愛された母ですら殺されてしまった―
自分を守るために、生きていくためにもアディリナは味方を増やすしかない。
アディリナは選択を誤るわけにはいかない
誤った選択が自身を滅ぼすことにつながると確信しているからだ
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その日は、サンチェス国との親睦会の準備のため、多忙だったヨハンが久々にアディリナを訪ねてきてくれた。
アディリナはヨハンが自分のために時間を取ってくれたことが純粋に喜ばしかった。
変わらない笑顔をヨハンに向ける。
ヨハンにはそれがたまらなく嬉しかった。
「ヨハンお兄様、お忙しいのにお時間を取ってもらってありがとうございます。一緒にお話しできてとても嬉しいです」
「いや、お前は気にしなくていい。…なかなか時間が取れなくてすまないな…」
アディリナを気遣ってというよりは、ヨハンは自身がアディリナと過ごせないことが嫌だった。
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ヨハンはこの親睦会はアディリナのためにも絶対に成功させようと励んでいた。
経験が不足している分、今までの他国との親睦会の記録をヨハンはすべて読んだ。そして頭に刻み込んだのだ。
関わる周囲の者たちは驚愕している。ヨハンの能力の高さに。
ずっとないがしろにしてきた第四王子は、誰もが驚く明敏な頭脳の持ち主であったことにやっと気づいたのだ。
その評判は、父である国王イスマエルにも母であるマリアンヌ王妃にも届いていた。
今更誰がヨハンを褒めたたえようとも、その声は決してヨハンには届かない。
―彼が求めている声はたった一人の声だけなのだから―




