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ナタリナ・ル・イヴァノフ
国王イスマエルの6番目の妻である。
ナタリナはマリアンヌ王妃に続き、唯一2人以上の王の子を産んだ。
フェリシナの死後、最も贔屓されていたのは彼女である。
しかし今、ナタリナは狼狽する。
この焦りはイスマエルの妻となり、初めて感じる感情であった。
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ナタリナがイスマエルの妻として後宮に入ったのは、フェリシナが亡くなってから3年後である。
ナタリナが持つのは蒼銀の髪。
ナタリナが持つのはフェリシナと同じ色。
その後ろ姿だけを見ると、フェリシナを思い起こさずにはいられない。
顔立ちはフェリシナよりもきつい顔立ちだが、
美貌そして、王の妻たちの中で引き立っての若さが彼女にはあった。
フェリシナの死後、万が一にもイスマエルが狂ってしまうことを恐れた国の高齢の重鎮たちが、イスマエルにフェリシナの代わりにとあてがった妻である。
その甲斐は少なからずあっただろう。
フェリシナの死後、イスマエルはフェリシナの面影をずっとずっと求めていた。
そこにフェリシナと同じ色を持つナタリナはうまく入り込むことができた。
フェリシナを求め続けるイスマエルは、フェリシナの面影を求め、ナタリナとの間に3人の子を設けた。
フェリシナの面影を求めるイスマエルは、妻たちの中で1番ナタリナの下を訪れた。
ナタリナはイスマエルの求めを理解し、亡きフェリシナを真似る。
ナタリナは自分の立ち位置を理解し、破格の待遇に喜んでいた。
他の妻やマリアンヌ王妃にさえ、優越感を抱いていた。
だってフェリシナはもういないのだ。
―フェリシナの代わりでもいい、陛下の寵愛を受けているのは自分なのだ―
それがずっと変わらない。そのはずだったのに。
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それがどうだ?
3か月前に開かれた王家の食事会。
たったその1回で自分が築き上げてきたすべてが崩れ去った。
―アディリナの登場である―
ナタリナは生前のフェリシナを知らない。
だからアディリナの姿を見たときにマリアンヌ王妃のように危機感を持つことが出来なかった。
それが遅いと気づいたのは後になってからだ。
あの日以来、ナタリナの下をイスマエルが訪れることはない。
あれから3か月一度も足を運ぶことはなかった。
なぜなぜなぜなの!
なぜ小娘1人に私の立場を奪われなければいけないの!
ナタリナは激怒し無意識のうちに爪を噛む。
美しかった爪はこの3か月で見るに堪えないくらいボロボロになってしまった。
癇癪を起し、物や使用人に当たることも多くなった。
この3か月で変わってしまった母をみて3人の子供たちは身を寄せ合う。
幼い子供たちには何もできない。ただ互いに身を寄せ合うことだけだ。
―優しいお母さま、お願い、お願い。戻ってきて―




