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カールとアディリナは公式に出会ったことはない。
アディリナの呪いが解けた1度目の食事会が初めての出会いのはずだった。
しかし、そう思っているのはアディリナだけである。
カールはアディリナが3歳の頃、一方的にアディリナを見つけていた。
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その日は忘れもしない。
この庭園を幼いアディリナと父であるイスマエル、そしてアディリナの実母のフェリシナ3人で散策していた所をカールは少し離れたところから見ていたのだ。
カールはその時7歳だ。
もうすでに物心がつき自身で判断もできるようになっている年ごろである。
普段自分や母といる時には絶対見せない表情を父は浮かべている。
そしてそれを囲む2人も、誰が見てもそれはそれは美しい微笑みだった。
―まるでそこだけ別世界のようだ―
その時カールは自身が初めて見た幼い妹を『天使』だと確信してしまった。
かわいい。きれい、美しい
その時カールが認識していたちんけな言葉で表現しきれない思いが胸を駆け巡ったのだ。
だって、だって!
教会で見たあの絵画
女神を囲む天使とそっくり、いや全く同じだったのだから!
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王子教育の一環でミサで訪問した城下町の教会で飾られていた絵画を思い出す。
その絵は特段価値のあるものでも、高価なものでもなかった。
どこの教会でもあるような、イヴァノフ王国が信仰する女神と、それを囲む天使の絵画だ。
だがその絵画は城に最も近い教会故、王家への忠誠心を高める所以もあるのだろう、女神と天使のほかに初代イヴァノフ国王の姿が描かれていた。
女神に祈りを捧げる初代イヴァノフ国王、そして周りを囲む天使。
教会の中でも決して目立つ場所に飾られてはいない。ただのそんな1枚の絵画だったのだ。
しかしなぜかカールはその絵画に目を奪われてしまった。
教会を去っても、その絵画だけは頭から離れなかったのだ。
カールは今自身の目に映る光景が、あの教会に飾られていた絵画と重なって映っていた。
幼いカールにはフェリシナが女神、そして小さなアディリナが天使にしか見えなかった。
その日聞いた教会での言葉を思い出す。
―神は、最も尊ばれるべき存在だ。
神は人のために天使を作ったのだ。天使は神の愛を人に伝えるために存在すると―
今迄なら聞き流していた教会での神父の言葉も、なぜかカールの胸に残っていた。




