13
『コンコンコン』
「お父様、アディリナでございます」
長い歴史を感じさせる豪華なドアをノックし、部屋の中にいるであろう父へと呼びかけた。
「入りなさい」
部屋の中から、穏やかな声で返事が返ってくる。
アディリナはドアを開ける前に一つ息を吐いた。
「失礼いたします」
アディリナはリチャードを後ろに従えて、部屋の中へと入った。
部屋の中には、父であるイスマエル、宰相のエメナド、そして父の護衛であるロイの3人がいた。
それを見て後ろに控えるリチャードからは更に大きな緊張が伝わってきた。
まさか国の重役である3名に拝謁するとはアディリナの傍に控えているからといって想像だにしていなかった。
イスマエルは顔に穏やかな笑みを浮かべ、アディリナを歓迎している。
それに反して、エメナドとロイは、11年ぶりに会ったアディリナの姿に驚愕したのか、驚きの表情を浮かべ、黙ったままだった。
「アディリナよ、先程の食事では皆がいたため出来なかったが、父にもっと傍で顔を見せておくれ」
アディリナはその言葉を受けて、イスマエルのすぐ手の届く距離に足を運んだ。
「ああ、アディリナよ…」
その言葉より先に、イスマエルは自身の腕の中にアディリナを閉じ込めた。
「…アディリナ。何か望むものはないか?何でも良い、ドレスでも宝石でもお前が欲しいものはこの父が何でも用意してやろう」
アディリナを腕の中に抱えたまま、左手で自身の色を受け継ぐ髪を撫でた。
「すぐに離宮からこちらの本宮へ移れるよう手配させる。それに護衛騎士も新たに今最も優秀な騎士を手配しよう」
アディリナが愛しくて堪らないと言ったように、イスマエルは言葉を続けた。
それは娘に対する愛なのか、アディリナの中の母であるフェリシナへの愛なのかわからなかった。
護衛騎士の話が出た瞬間に、入り口に控えていたリチャードは絶望に落とされる
―やはり、自分ではアディリナ様のお傍にいることはできないのだ―
自分の未熟さは自分が一番理解していたはずだった
自分は父や兄の様な優れた騎士にはなれない
―この5年間、いやこの1ヶ月は自分に都合の良い夢だったのだ―
「お父様、アディリナはドレスも宝石もいらないのです」
イスマエルの腕の中でされるがままであったアディリナは笑みを浮かべて応えた。
その答えにイスマエルは表情を沈ませる。
「でも2つだけ、お願いしたい事があるのです…」
これから先の言葉を発するのに迷った様に目を伏せる。
「!なんだ、アディリナ。お前の望むものは何でも用意しよう」
イスマエルはアディリナのお願いの先を促した。
「…お父様がお忙しい事は分かっております…。でも、少しの時間で良いのです、お父様のご都合の良いお時間を私にくださいませんか?」
少し躊躇うように目を伏せ言葉を続ける。
「…お父様と一緒の時間を過ごしたいのです」
愛しい娘のそんな小さくも、イスマエル自身を求める願いにイスマエルは歓喜した。