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「国王陛下のご到着でございます。」
そんな衛兵の声を受けて、席についていた全員が立ち上がった。
扉の先にいる国王イスマエルは、金色の髪のオールバックに青い瞳を持つ。その風格は一国の王としての威厳を備えていた。
鋭い視線を部屋の中へと向ける。
「国王陛下」
王妃のマリアンヌがいち早くカーテシーを取ると、それに全員続いて頭を下げた。
もちろん、アディリナもそれに続いた。
入り口から部屋の中を一瞥したイスマエルは、ある一点で動きを止める。
予め今日の食事会にアディリナが参加することは聞いていた。
呪いが解けた日も、宰相からその事実を聞いていた。
しかし、呪いが解けた1ヶ月の間一度として会いには行けなかった。
イスマエルは怖かったのだ。
フェリシナの死に囚われ、フェリシナの忘れ形見であるアディリナのために自身は何もしてこなかったし、できなかったのだから。
―しかし、全てが一瞬の内に頭から抜け落ちた―
なぜならそこには、髪や瞳の色は異なるが、自身の記憶の中の最愛のフェリシナと瓜二つの存在がいたからだ。
「…フェリシナっ」
思わず言葉として出たイスマエルの小さな呟きは誰の耳にも届かなかった。
入り口付近で足を止めたままのイスマエルだったが、しばらくするとその足を自然とアディリナの席へと向けていた。
「…我が愛する娘、アディリナよ…」
アディリナの頬に片手を添え、慈しむような眼差しを向けた。
そんあ目の前の出来事に部屋にいた全員が驚愕した。
王妃のマリアンヌも、妃たちも子供たちそして王太子のセドリックでさえもその様なイスマエルの優しい眼差しも言葉もかけてもらったことはなかったのだ。
「アディリナよ、長い間お前を呪いから救うことのできなかった愚かな父を許しておくれ…」
イスマエルは悲しみ・怒り・後悔…あらゆる感情をこめて謝罪の言葉を口にする
アディリナは自身が父に愛されている事を、その眼差しと言葉で全身で感じた。
それと同時に自身に対しての他の家族たちの強い嫉妬・妬みも。
だからこそアディリナは理解している。
母であるフェリシナ亡き今、後ろ盾のないアディリナを守ってくれるのはこの父であり、この国最大の権力者イスマエルだけなのだと。
「お久しゅうございます、父上」
父の瞳を正面から受け止め、微笑む。
「!父上ではなく、昔のようにお父様と呼んでおくれ」
穏やかな声で、イスマエルも顔に小さな笑みを作った。
近づいて見れば見るほど姿も微笑みもフェリシナに似ていたのだ。
最愛のフェリシナとよく似た姿、そしてイスマエル自身の髪と瞳の色をしっかりと受け継いでいる娘を愛おしく思わずにはいられなかった。
「お父様、お父様のせいでは決してありません。もう呪いも解けすっかり元気なのです」
「ああ、我が愛しい娘アディリナよ…」
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イスマエルのアディリナに対するその態度を見て、王妃を含め、その場にいる妻たちは思い返さずにはいられなかった。
憎い、憎い、憎い、憎い
―王の寵愛を一心に受けた憎きフェリシナの再来だと―