彼女にフラれて凹んでる俺に、天使が舞い降りた件について。
息抜きに書き殴りました。
面白い、続きが読みたい、そう思っていただけましたら応援よろしくです。
「アンタには愛想が尽きたわ! もう、アタシにはかかわらないで!」
「な、なんだよ! 今日はそっちが――」
「うるさい、帰る!!」
「な、おい!?」
とっさに手を伸ばすが、彼女に触れることもできずにすり抜けた。
街のど真ん中で取り残された俺――内藤ハヤトは、ただ呆然と立ち尽くす。周囲の人々はみな、俺たちの会話を聞いていたのか、口々に何かを言っていた。
大方、別れ話だと思っているのだろう。
「…………」
残念ながら、それが正解だった。
俺はいまこの瞬間に、彼女にフラれたのだ。
本当に些細な喧嘩が発端――いいや、もしかしたら積もり積もってかもしれない。それでも、あまりに一方的な宣告には、棒立ちすることしかできなかった。
街の雑踏の中に、雪が降っていた。
今年の初雪だ。幻想的な光景に、他のカップルたちはみな、嬉々として空を見上げている。そんな中で俺だけは、悔しさからアスファルトを睨みつけていた。
どうして、どうしてだよ。
今までアイツのわがままに付き合ってきたのは、俺の方じゃないか。
そう考えると、少しずつ怒りが湧き上がって――しかし、同時に虚しさが顔を出した。心にぽっかりと穴があいたような。そんな感覚。
「なんだかんだ、四年も一緒にいたんだもんな」
高校入学から間もなく付き合い始め、同じ大学に進学した。
そんな相手にフラれたのだ。
俺は意気消沈として歩き始める。
そして、気付けば人気のない公園にやってきていた。
一人になれるのであれば、ここでいいか。そう考えて俺はブランコに腰かけて、大きくため息をついた。誰もいない夜の公園に、それは大きく響く。
小高い場所。
街を見渡せるこの公園で、俺はほんの少しだけあらぬことを考えた。
少し先のガードレールを越えれば、そこには程よい高さの崖があるのだ。
「はぁ、なに馬鹿なこと考えてんだよ。フラれたぐらいで」
でも、すぐに気持ちを切り替える。
彼女にフラれたぐらいで、こんな風になるなんて情けない。
そう思って、もう一つため息をついた時だった。
「――幸せは、いりませんか?」
不意に、目の前からそんな声が聞こえたのは。
「はい……?」
「ですから、幸せはいりませんか?」
少しだけ驚きつつ、前を見るとそこには一人の女の子が立っていた。
色素の薄い髪に金の瞳。白い肌に、整った顔立ち。あたたかな格好をしているものの、ほんの少しだけ頬は赤く染まっていた。
こちらが首を傾げると、その女の子も首を傾げる。
えっと、これはつまり――。
「あぁ、壺なら買いませんから」
俺は苦笑いしながら、そう答えた。
これは要するに美人局か、あるいはそういった商法に違いない。困っていそうな人物に声をかけて、金を奪い取るというやつだ。
そう結論付けて立ち上がり、その場を後にしようとする。
もう少し、静かな場所を探そう。
そう思ったのだけれど――。
「あの……!」
「え、なんすか」
「壺、ってどういう意味です?」
その女の子は、俺の腕にしがみついて上目遣いにそう言うのだった。
本当にこちらの言葉の意図をくみ取れていない。彼女の目がそう語っていた。困ったように眉尻を下げて、首を傾げてしまっている。
えっと……?
「その、キミは何者……?」
その様子に、俺は思わずそう訊いてしまった。
ヤバい。これ、詐欺だったら完全に片足を突っ込んでいる。
そう思っていると、その女の子は突然に笑顔を浮かべ、こう名乗った。
「申し遅れました! 私の名前はジブリーヌ・エーデルワイス!」
満面の、花のような笑みを浮かべて。
「貴方を幸せにするためにやってきた、天使ですっ!」――と。
◆
「――もう! どうして、追いかけてこないのよ!?」
四条レイカは、傍から見て分かるほどに苛立っていた。
それというのも先ほどの一件で、恋人であるハヤトに追いかけてもらえなかったから。いつもなら、自分が不機嫌になった時に謝罪をするのは彼の方だった。それだというのに、最近はハヤトも強情になってきて、思うように決着しない。
それが積もり積もって、いつもより強く出てしまった。
冬の寒さの中。
レイカは、彼の行きそうな場所を探し回っていた。
雪が肩の上に小さく積もり始めている。厚着をしているとはいえ、今年初の降雪だ。寒く感じないわけがない。
小さなくしゃみをして、ふと彼女は小高い場所にある公園を思い出した。
「そういえば、あそこ――」
その公園は、二人にとっての思い出の場所でもある。
彼は覚えているか分からないが、高校に入学する前に一度だけ、レイカはそこでハヤトに会ったのだ。そして、その時に彼女は彼に――。
「…………」
考えて、少しだけ泣きそうになった。
どうしてあんなことを、自分は言ってしまったのだろう。
そんな後悔が、今になって彼女に襲い掛かってきた。その気持ちに押されるようにして、レイカは公園への道を急ぐ。
そうして、その場所にたどり着いた時だった。
「え……?」
ハヤトが、見知らぬ少女と身を寄せ合っていた。
その姿を目の当たりにしたのは……。
◆
「あ、危ないところだった……」
「てへへ、ありがとうです」
天使だと名乗ったジブリーヌが、滑って転びかけたのを抱きとめた。
とっさだったので、まるで恋人同士のそれのようになったけれど――誰に見られているわけでもないので、心配は無用だろう。
俺はゆっくりと彼女を開放して、ひとまず話を聞くことにした。
「……で? 天使、ってのは何の冗談?」
「む、冗談ではないですよ!?」
だが、ジブリーヌはムッとしてしまう。
そして俺に向かって、こう言うのだった。
「えっと、貴方の名前は内藤ハヤトさん。間違いないですね?」
「そうだけど。どうして、名前を知ってるんだ」
「えっへん! 天使の手帳には、あらゆる情報が載っているのです!」
「えぇ……?」
こちらの問いかけに、それほど大きくない胸を張って答える少女。
天使の手帳、って――なんだ、それ。
「しかし、紛失してしまいまして。それ以上は知りません!」
「そりゃ大変だな……」
とか思ってたら、またも自慢げにそう言うジブリーヌ。
俺は苦笑いしながら、こう訊いてみた。
「それじゃ、どうやってキミが天使だって証明するんだ?」――と。
ほんの少し、意地悪なことを。
すると彼女はキョトンとしてから、すぐに笑うのだった。そして、
「えへへ! それじゃ、ちょっとだけ――」
祈りを捧げるように。
ジブリーヌは、両手を結んだ。すると、
「え……?」
俺は、目を疑った。
なぜなら、少女の背中には――。
「これで、信じてもらえましたか? ――ハヤトさん」
たしかに、間違いなく。
天使の羽と呼ぶべきものが、あったのだから。
今年最初の雪の降る夜のこと。
彼女にフラれて凹んでいる俺の前に、天使が舞い降りたのだった。
勢いで欲望に任せて書きました。
連載候補ですが、これはどうなんだろうか……?
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