目覚めると病室
目覚めると、そこはクリーム色のカーテンで仕切られたベッドの上だった。
『あれえ?昨夜は自宅で普通に寝たはずなのに、なにがあった?』
点滴はないが、血圧計と心電図モニターが付けられている。
そのとき、「失礼します」と、白衣の女性がカーテンを引いて入ってきた。
「あ、意識が戻られたのですね」という女性の背後にナースステーションが見える。
どうやら、私はICUにいるようだ。
「先生?私は、なぜここにいるのでしょうか?」
「私は、君の担当医になった鈴木です。今から教授回診なので、その後で説明します」
だが女性が答えは、自分が発した声が別人の声だったことに動揺して耳に入ってこなかった。
そのとき、ICUのドアが開き白衣を着た女性たちが、ぞろぞろと入室してきた。
「学生さんは、もう臨床実習にもどりなさい」と、声が聞こえる。
担当医の鈴木さんが、カルテを見ながら話し出した。
「患者氏名、ナカノシンイチ。15歳、男性。今朝の地震で、階段から転落して
意識を喪失し救急搬送されました。先ほど意識が戻ったばかりなので、問診等は行っておりません」
『え!?俺、田崎純一だけど?50歳を15歳に間違える?階段から転落?』
階段から落ちた夢を見ていたと思っていたら、本当に落ちたの?
夢から覚めたら、夢の中? 明晰夢だと思っていたけど、ちがう?
40歳ぐらいに見える女性が話しかけてくるが、耳に入ってこない。
「教授、脈が速くなってます」
「大勢に囲まれて、緊張しているのかも知れません。あとは、医局会で報告して下さい」
担当医の言葉に教授らしき女性がこたえると鈴木先生を残して、ICUから出て行った。
『ああ、思い出した。死因は知らないけど、死んでいたんだ』
亡くなった後、「次は、どのような世界が良い?」という問いに「戦争がない世界」と答えたんだった。
記憶がはっきりしてきた。
不登校で、ひきこもりの15歳。でも、どうやら50歳の年月で培った人格の方が強いようで、
今世の状況がしっくりこない。
「どうやらおちついたようね」
心電図のモニターを見た鈴木先生が、話しかけてくる。
「状況は、はあく出来ました。この後、どうなりますか?」
「今、お母さんが入院の手続きをしていますから、それが終わると個室に移ります。
頭部を打っていますから、午後に頭の中で出血していないかをCT検査します。
3日ほど経過を見て、異常がなければ退院です。
その後3か月は、硬膜下血腫の経過観察をしますので通院していただきたく思います」
そのまま、頭が痛くないか?吐き気はないか?アレルギーはないか?今までにかかった病気は?
など、聞かれていると母が、ICUに入ってきた。
「しんちゃん、よかった。気がついたのね」
「心配かけてごめんなさい。たんこぶ痛いけどだいじょうぶだよ」
「地震の所為だから、しかたないわ」
「意識も戻りましたし、これから病室に移動しますがよろしいでしょうか?」
と言う主治医の言葉で、病室を移動することになった。